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ID番号 01780
事件名 地位保全仮処分申請却下決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 東京菱和自動車事件
争点
事案概要  佐藤首相訪米阻止行動に参加して逮捕され欠勤した労働者が会社の事情聴取に応じずかえって上司にくってかかったりするなどの行動をとったことを理由としてなされた懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1973年2月10日
裁判所名 東京高
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (ラ) 508 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報700号123頁
審級関係 一審/東京地/昭45. 3.24/昭和45年(ヨ)2326号
評釈論文
判決理由  疏明資料によれば、前記のいわゆる佐藤訪米阻止抗議行動といわれるものは、原決定記載のように、都内品川地区や同国電蒲田駅周辺を中心に昭和四四年一一月一六日午後三時すぎ頃から午後一〇時頃にかけて行われ、いわゆる過激派学生や反戦青年委員会系労働者らが大量の火焔びんを搬入投擲し、警備の警察官に対する投石、街路上でのバリケードの構築等を行い一般市民まで巻き添えにしたものであって、大量の学生、労働者が公務執行妨害、凶器準備集合等の罪名で現行犯逮捕され送検されたこと、抗告人らは同月一七日から会社を欠勤したので、会社は抗告人らは右佐藤訪米阻止抗議行動に参加して逮捕されたのではないかと思い、警察庁に照会したところ、抗告人らはいずれも右行動に参加し、抗告人X1は公務執行妨害の、抗告人X3は公務執行妨害、凶器準備集合の、抗告人X2は公務執行妨害、道路交通法違反の各罪名により逮捕勾留され、殊に抗告人X1は逮捕時に全共斗と記載された赤色ヘルメットを着用しており、抗告人X3は同様反戦、安保紛砕と記載された赤色ヘルメットを着用していた事実が判明したことが疏明されるので、会社としては、たとい抗告人らが起訴されずに釈放されたにしても、抗告人らが右の各罪名のような犯罪行為を犯したのではないかとの疑を抱いたからといって、あながち無理ではなく、またもしも抗告人らが犯罪を行って逮捕勾留されたため欠勤したものとすれば、特段の事由の存しない限り、前記の就業規則第一九条にいう「やむを得ない事由」により欠勤したものとはいい難く、したがって欠勤届を提出しても会社の承認を得ない限り無断欠勤としての取扱いを受けることは避け得ないものと解されるところ、疏明資料によれば、会社は昭和四四年一二月一八日頃抗告人らから抗告人らが逮捕された事情を直接聴取しようとして問いただしたことが疏明されるのであるから、抗告人らとしてはもしも犯罪行為を犯していないのであれば、そのような機会に事情を説明して十分弁解すべきであるのに、疏明資料によれば、抗告人らはいずれも詳細な事情を語らず(《疎明判断略》)、かえって「回答の必要はない。」「会社はどうして警察のようなことを聞くのか。」「そんなことは警察に行って調べろ。」などといって回答を拒否したことが疏明されるのであるから、会社が上記の理由による懲戒解雇を議題として懲戒審査委員会を開催しようとしたからといって、それのみであながち根拠のない事実を捉えて解雇を強行しようとしたものと断ずることは当を得ないものというべく、抗告人らが右のように会社の事情聴取に応じないでおきながら、逮捕勾留が不当であり、抗告人らの欠勤も無断欠勤にあたらないとして、懲戒審査委員会の開催に抗議し、執務中のA4総務部長に対し前記のように口々に大声で怒鳴ったりくってかかったりしたのは相当でなく、また抗告人らは無断で職場離脱(正確には前記のとおり職場に出勤せずに本社に赴いたこと)の上右のような行動をとったのであるから、抗告人らの行動は到底正当な理由に基くものと解することはできない。
 (中 略)
 右就業規則にいう「職場の秩序をみだした」というには、所論のように会社に具体的な損害を与える程度のものであることまでをも必要とするものと解すべき根拠も見出し難く、抗告人らの前記のような行動が右「職場の秩序をみだした」ものに該当することは明らかというべきである。