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ID番号 01789
事件名 雇用契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 日本鋼管事件
争点
事案概要  A製鉄所の工員であった労働者が砂川事件に加担して刑特法違反の罪により逮捕、起訴されたことに関し、不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとした懲戒解雇されたのに対してその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1974年3月15日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (オ) 982 
裁判結果 棄却
出典 民集28巻2号265頁/時報733号23頁/タイムズ309号257頁/裁判所時報638号2頁/裁判集民111号351頁
審級関係 控訴審/01752/東京高/昭45. 7.18/昭和42年(ネ)2350号
評釈論文 横井芳弘・労働判例196号4頁/角田邦重・労働法律旬報860号12頁/菊池高志・労働判例198号17頁/窪田隼人・民商法雑誌72巻3号482頁/佐藤繁・法曹時報28巻8号154頁/佐伯仁・月刊労働問題198号92頁/秋田成就・判例タイムズ313号122頁/滝川誠男・労働法学研究会報1042号1頁
判決理由  営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。本件懲戒規定も、このような趣旨において、社会一般から不名誉な行為として非難されるような従業員の行為により会社の名誉、信用その他の社会的評価を著しく毀損したと客観的に認められる場合に、制裁として、当該従業員を企業から排除しうることを定めたものであると解される。
 (中 略)
 従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
 そこで、本件についてみるに、被上告人らは、在日アメリカ空軍の使用する立川基地の拡張のための測量を阻止するため、他の労働者ら約二五〇名とともに、一般の立入りを禁止されていた同飛行場内に不法に立ち入り、警備の警官隊と対峙した際にも、集団の最前列付近で率先して行動したというものであって、反米的色彩をもつ集団的暴力事犯としての砂川事件が国の内外に広く報道されたことにより、当時上告会社が巨額の借款を申し込んでいた世界銀行からは同会社の労使関係につき砂川事件のことを問題とされ、また、国内の他の鉄鋼関係会社からも同事件について批判を受けたことがあるなど、上告会社の企業としての社会的評価に影響のあったことは、原判決の確定するところである。しかし、原判決は、他方において、被上告人らの前記行為が破廉恥な動機、目的に出たものではなく、これに対する有罪判決の刑も最終的には罰金二〇〇〇円という比較的軽微なものにとどまり、その不名誉性はさほど強度ではないこと、上告会社は鉄鋼、船舶の製造販売を目的とする会社で、従業員約三万名を擁する大企業であること、被上告人らの同会社における地位は工員(ただし、被上告人坂田は組合専従者)にすぎなかったことを認定するとともに、所論が砂川事件による影響を強調する前記世界銀行からの借款との関係については、上告会社の右借款が実現したのは同時に申込みをした他の会社より三箇月ほど遅延したが、被上告人らが砂川事件に加担したことが右遅延の原因になったものとは認められないとしているのである。
 以上の事実関係を綜合勘案すれば、被上告人らの行為が上告会社の社会的評価を若干低下せしめたことは否定しがたいけれども、会社の体面を著しく汚したものとして、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由とするのには、なお不十分であるといわざるをえない。