全 情 報

ID番号 01866
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 山手モータース事件
争点
事案概要  欠勤したことを理由に使用者がなした懲戒解雇につき、解雇権の濫用にあたる等として、労働契約上の地位の確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1980年4月1日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ヨ) 500 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例342号37頁/労経速報1061号12頁
審級関係
評釈論文 渡辺章・中央労働時報668号13頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―二重就職・競業避止、業務命令拒否・違反〕
 債務者は、債権者の申出によって、債権者が昭和五三年一月一日以後も欠勤を続けることを予期し、しかもそのおおよその期間を予測しえなくはなかったこと前記認定のとおりであるから、同日以降の欠勤について届出を欠いたこと自体は、それほど重大な義務違反ではなかったということができること、債権者のタクシー運転手という業務は、その性質上他の従業員の職務との関連性に乏しいものであるうえに、債務者が債権者に対して業務命令を発した当時またはその後において、債権者の欠勤(業務命令拒否)が、債務者の業務運営に著しい障害をもたらすおそれが存在しあるいはこれを現実にもたらしたことの疎明はないこと、前記認定事実によれば、債務者が業務命令を発したのは、債権者の地連業務従事が就業規則八一条六号(二重就職等)の懲戒解雇事由に該当すると考えたためと認められるところ、債権者が右命令に従わなかった理由の一つには、右債務者の見解は理由のないものと考えたことがあったと認められること、債務者が昭和五三年六月二一日から本件解雇の日まで債権者の就労を拒否したことは全く根拠のない処置であったこと前記のとおりであるから、債権者は右期間中の賃金債権を失わず、債務者にはその支払義務があるところ、債務者はこれを未だに支払っていない事実に照せば、債権者において右賃金債権を失わないとはいえ、債務者の右就労拒否の処置は就業規則所定の懲戒の一つである出勤停止処分にも準ずるものであったというべきであること、(証拠略)によれば、債権者は、第一次欠勤以降の欠勤期間中、健康保険料及び厚生年金保険料の従業員負担分を毎月会社あるいはA宛に送金していたことが疎明されること、(人証略)によれば、債務者の運転手の給料や退職金額等は、主に運転手の水揚げ高によって決定され、勤務年数による影響は殆んどないこと、また、一般にタクシー運転手の定着率は低く、会社においても運転手の平均勤務年数は六、七年であるところ、債権者は第一次欠勤まで約一一年間勤続し、その勤務状態も他の運転手に比して特に劣るものではなかったことがそれぞれ疎明されること、さらに、債権者が地連業務に専従することは、業務命令拒否や欠勤に正当性を付与するものでないことは前記のとおりであるけれども、債権者の地連書記長職は、債務者の従業員の一部で組織する組合の意思に基づくものであり、また、その職務は、組合と債務者間の紛争解決をも内容とするものであって、右労使間の秩序形成に寄与する一面も有していること、以上の諸事情を総合考慮すれば、債権者の業務命令違反及び無届欠勤は、債権者を社外に放逐しなければその秩序維持が著しく困難となる程重大なものであったとまでは認め難く、殊に債務者が昭和五三年六月二一日から本件解雇の日まで債権者の就労を拒否した処置が懲戒処分の実質さえ有する面を考えると、本件解雇は、懲戒処分としては重きに過ぎて、著しく処分の相当性を欠くものであり、懲戒権の濫用として無効のものといわなければならない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務懈怠・欠勤〕
 欠勤は、本来、労働契約に基づく労働者の使用者に対する労務提供義務の不履行であるから、賃金債権の不発生や場合によっては労働契約の解約(通常解雇)等債務不履行上の効果を生ずるにとどまり、当然には労働者に対する制裁としての懲戒の対象になるものではない。ただ、労働者が労働契約を通じて使用者の有する労務指揮権に服し、使用者はこれに基づいて生産活動の維持向上のため労働力の有効適切な配置を行うことができるのであって、もし労働者が事前または事後遅滞なく届出もなしに欠勤するようなことがあると、使用者はその補充、配置変更等欠勤者の担当業務に対する有効適切な措置を速やかにとることができず、ひいては業務運営、生産活動を阻害されることにもなるのであるから、この趣旨に基づくかぎりにおいて、欠勤を懲戒の対象とすることが許されるのである。従って、事前または事後遅滞なく欠勤の届出がなされさえすれば、使用者は欠勤によって生ずる業務運営上の支障を回避する措置をとることができ、欠勤を懲戒の対象とする実質的理由はなくなったといえるのであるから、それ以上に使用者が欠勤届出をせんさくし、そのいかんによって欠勤の許否を決しうるものとすることは、右欠勤を懲戒の対象としうる趣旨を逸脱するもので、欠勤理由と密接な関係のある労働者の私生活をも懲戒権の作用に服せしめることにもなりかねず、原則として許されないというべきである。