全 情 報

ID番号 01908
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 国際タクシー事件
争点
事案概要  父親経営の新聞販売店の業務に従事し、右販売店への通勤に会社のタクシーを使用していたタクシー運転手が、就業規則の兼職禁止規定に違反するとして懲戒解雇されたのに対し、右懲戒解雇事由に該当する事実はなく解雇は無効であるとして地位保全等求めた仮処分異議の事例。(原決定認可、労働者勝訴)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
裁判年月日 1984年1月20日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (モ) 3103 
裁判結果 原決定認容、原決定認可
出典 労経速報1188号5頁/労働判例429号64頁
審級関係
評釈論文
判決理由  昭和五五年七月から同年一〇月までの新聞販売業務について
 債務者会社における就業規則三五条一九項の会社の許可なく臨時又は常傭を問わず他に雇用されないことという兼職禁止規定の適用にあたっては、一般に、労働者は労働契約に定められた時間、場所において、契約に定められた労働を提供する義務があるが、時間外においては、特約なき限り他の者のために働いてはならない義務はないこと、債務者会社の右就業規則においては、兼職禁止規定違反の制裁は、懲戒解雇という重い処分のみとされていることなどに照らすと、右兼職禁止規定に違反するのは、会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のものであることを要すると解すべきである。
 (中 略)
 前記認定のように、新聞販売店の実質上の経営者は債権者の父親であり、債権者が新聞販売業に従事するようになった動機は高齢の父親からの懇請でやむを得ず引き受けたものであることや、この時期債権者が従事した時間は、乗務日においては債務者会社における所定始業時刻である午前七時三〇分(就業規則第一四条)より前の約二時間であり、月収も六万円と比較的低額であったことなどに照らすと、債権者のこの時期の新聞販売業務は、いまだ、債務者会社への労務の提供に格別支障を生ずるものではないものと認められるから、兼職禁止規定に違反するものと認めることはできない。
 同年一一月から昭和五六年三月までの新聞販売業務について
 (中 略)
 債務者会社では、いわゆる三六協定で三時間の時間外超過勤務を取り極めており、右午前四時三〇分からの出庫は、勤務時間として認められる趣旨であると解される。したがって、債権者が、午前四時三〇分に出庫させて後新聞配達に従事していたのは、債務者会社の勤務時間内であるといわねばならない。
 (中 略)
 右各事実を総合すれば、この時期の債権者の新聞販売業への従事には債務者会社の許可がなく、しかも企業秩序に影響を及ぼし、労務の提供に支障を来たす程度に達していると認められるから、兼職禁止規定に該当するものというべきである。
 (中 略)
 以上の事実に、債権者が新聞配達業務に従事することにより、債務者の営業、業務管理等に具体的な悪影響を与えた旨の疎明のないことをあわせ考えると債権者のこの時期の新聞販売業への従事が、兼職禁止規定に該当するとしても、これを理由に懲戒解雇まですることは、債権者の蒙る不利益が著しく大きく、解雇権の濫用として許されないところというべきである。