全 情 報

ID番号 01937
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 済生会中央病院事件
争点
事案概要  飲酒のうえでなした警察官に対する行為により公務執行妨害罪として罰金刑をうけたこと、勾留期間中無断欠勤したこと等を理由とする懲戒解雇につき、就業規則所定の懲戒解雇に値するとはいえないが、普通解雇としては有効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号,9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業外非行
裁判年月日 1986年1月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ヨ) 2342 
裁判結果 却下
出典 労働判例467号32頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔解雇-解雇事由-無届欠勤〕
 〔解雇-解雇事由-企業外非行〕
4 以上1ないし3によれば、単なる1のみの本件刑事事件であれば、これを理由に本件解雇をなすことが許されないことは前説示のとおりであるが、右2及び3の申請人の態度等をも併せ検討すると、申請人に本件解雇を受けてもやむを得ないような事情が相当に加わっているということができるが、前記のとうり本件解雇が懲戒解雇であって、それが申請人及ぼす重大な結果に思いをいたすと、なお以上1ないし3の事実を理由とする本件解雇を肯定することはできず、他にこれを肯定するに足りる証拠はない。
(中略)
 以上説示のとおり、被申請人主張の申請人の所為は就業規則四五条一号にも三号にも該当しないものというべく、また申請人の右所為を併せて懲戒解雇に値するというよ評価をなすことは右就業規則の規定からみて許されざるものと解するを相当とする。
四 (証拠略)によれば、病院の就業規則は賞罰については賞罰委員会に諮る旨定め(四六条)、その賞罰の制裁としての懲戒処分を譴責、減給、出勤禁止、職階剥奪又は職階降下、懲戒解雇と定めている(四二条)ことが認められ、本件解雇が懲戒解雇としてはその効力を生じ得ないことは前説示のとおりであるから、さらに本件解雇につき賞罰委員会におれる手続上の瑕疵について判断するまでもなく、本件解雇が懲戒としての効力を有しないものというべきである。
 2 右1の事実によれば、申請人の勤務状況等は不良というほかはなく、これに対し再三にわたって上司等からの警告、注意等がなされてもなお改善されなかったばかりでなく、逆にこれに反抗するような態度をとっていたことは、申請人の勤務場所が病院でしかもその職務が外来患者の受付というような点等を考慮に入れると前説等の懲戒解雇の結果の重大さを考慮してなお、申請人の右の所為は就業規則四五条三号所定事由に該当するものといわれてもやむを得ないところもなくはないが、結局、右懲戒解雇が申請人に与える結果の重大さと申請人の右所為により病院の秩序、業務等が阻害されたことによる病院の被る不利益とを対比検討すると、未だ懲戒解雇という最も苛酷な手段をもって申請人を被申請人(病院)の外に排除し得るとする就業規則四五条三号申立事由に該当するとまでは断定し得ないものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換〕
本件解雇は就業規則四五条一号、三号による懲戒解雇としてはその効力を生ずるに由ないものというべきであるが、被申請人としては必ずしも懲戒解雇に固執せず通常解雇としても本件解雇の効力を維持する意志を明らかにしているので、この点について検討する。
1 就業規則一〇条が次のような定めをしていることは当事者間に争いがない。
職員が次に掲げる各号の一に該当する場合は、三〇日前に予定するか又は郎党基準法第一二条に規定する平均給料の三〇日分を支給して解雇する。ただし、(以下略)
1、2(略)
3 業務上の諸規定、若しくは指示命令に違反し、職場の秩序を紊しとき
4 (略)
5 勤務成績又は能率が甚だしく不良で就業に適しないと認められたとき
2 (証拠略)によれば次の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
被申請人が申請人に対し本件解雇の意志表示をした昭和五四年八月一三日付「処分通知初」(<証拠略>)には「病院は貴殿に対する解雇予告手当並びに8月分未払い賃金は本日経理課においてお支払い致します」と記載されており、同書面は当日申請人に交付されている。
3 申請人の前記三の1ないし3の所為が就業規則一〇条三号、五号所定事由に該当するものといえることは前記の1ないし3においてそれぞれ説示しているところから明らかであるというべきであり、右就業規則の規定には何ら不合理存しないものと解するを相当とする。
4 以上1ないし3によれば、就業規則一〇条、労働基準法二〇条一項所定のいわゆる解雇予告手当の支払いは前規定の2をもって足りるものと解するを相当とするので、被申請人の申請人に対する通常解雇の効力は前記「処分通知書」が申請人に交付された昭和五四年八月一三日に生じたものというべきである。
よって、この点についての被申請人の主張は、爾余の点について判断するまでもなく理由があるものというべきである。