全 情 報

ID番号 01938
事件名 慰藉料請求事件
いわゆる事件名 東京銀行事件
争点
事案概要  原告が思想信条を理由に賃金差別を受けているとして大蔵大臣に被告銀行への優遇措置の廃止等を求める要請書を送付したところ、被告銀行が原告を戒告処分に付したので原告が戒告処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認等を求めた事例(棄却)。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1986年1月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 10976 
裁判結果 棄却
出典 労働判例470号53頁/労経速報1246号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由  四 そうすると、本件要請書の「A会社は、思想信条による極端な賃金差別弾圧を行っています」との部分は、原告が自らの勤務状況を省みることなく、明らかに事実に反する虚偽の記載をしたものといわなければならない。そして、その余の「よって、A会社から“為専”の適用をはずす、A会社債券の発行をやめさせる、など特権的優遇処置を直ちに廃止すべきであります」、「その為に、大蔵省から有能な職員・人材をA会社に派遣して、不正なA会社の経営陣、体質を一掃すべきであります」との記載も、仮に原告が自らは賃金差別を受けていると思っていたとしても、そのこととどのように結び付くのかさえ容易には理解し難いものであり、大蔵大臣に対して真摯に要請をする趣旨のものとは到底受け取ることができない。ましてや、原告が主張するような賃金差別は存在しないのであるから、原告がこのような記載のある文書を提出することは、自らが勤務する被告銀行を誹謗し、中傷するに等しい行為である。
 そして、(人証略)によれば、被告銀行がわが国唯一の外国為替専門銀行であることから、被告銀行にとって大蔵省は単に監督官庁であるというにとどまらず、国の国際金融政策、貿易政策等の面で日常的に密接な関係にある官庁であり、大蔵省としても被告銀行の業務内容や職員の質について、そのような関係に応じた信頼を寄せていること、原告が本件要請書を提出すると、すぐに大蔵省から被告銀行に対し「Bなる職員がいるのか。いるとすれば、どうしてこのような常軌を逸した内容の書面が提出されるようなことが起きるのか」との照会があり、本件要請書の写しが送付されたこと、そこで被告銀行の人事部は原告から事情聴取をしたが、原告は「これは事実を述べたまでであり、自分としては間違ったことはしていない。大蔵省は天下り先を探しており、A会社に人を派遣せよと言ってやったから喜んでいるのではないか」と答えていたことが認められる。
 この認定事実及び本件要請書の記載内容によれば、原告が大蔵省に赴き本件要請書を提出したことは、大蔵省との関係で被告銀行の体面を汚し、又はその信用を損なったものであるといわなければならず、その程度や事情聴取における原告の対応を考慮すれば、被告銀行がこの行為に対し最も軽い制裁である戒告処分をもって臨んだことは相当であり、本件処分を無効とすべき理由はない。