全 情 報

ID番号 01943
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本赤十字社事件
争点
事案概要  刑事事件に関し起訴されたことを理由に就業規則に従い起訴休職処分に付された病院職員が、右処分は無給とされている点で過酷にすぎ、また不当労働行為にあたり無効である等として休職処分期間中の未払賃金に相当する額の損害賠償を求めた事例。(請求棄却)
参照法条 民法536条2項
労働基準法26条,89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 休職処分・自宅待機と賃金請求権
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1969年6月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ワ) 6113 
裁判結果
出典 労働民例集20巻3号601頁/時報585号84頁/タイムズ238号266頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト464号136頁
判決理由 〔賃金―賃金請求権の発生―休職処分・自宅待機と賃金請求権〕
 労務給付の不履行ないし不能があっても、それが民法第五三六条第二項または労働基準法第二六条にいう債権者または使用者の責に帰すべき理由によるとき、労働者はそれにも拘らず賃金請求権を失うことがないのであるが、労働者に対する犯罪の嫌疑の客観化による職務遂行上の支障が根拠となっている起訴休職による労務給付の不履行ないし不能は、右使用者の責に帰すべき事由によるものとはいいえず、労働者の賃金請求権は当然には発生しないというべきである。
 したがって、前記就業規則第五四条但書の規定は右当然のことを定めたものということができ、労働基準法第二六条に違反するものでない以上、同法第一条、第二条により無効となることはない。
 〔休職―起訴休職―休職制度の効力〕
 人が刑事事件に関し起訴された場合、犯罪の嫌疑が客観化されたものとして、それなりの社会的評価を受けることは避けられない実情にあり、病院職員が公訴の提起を受け乍ら、職員として勤務を続ければ、当該職員の職務および公訴事実の内容如何によっては職場秩序が乱され、または病院ないし被告の社会的信用が害され、職務遂行上支障をきたすことのあるは否定できず、また、公判審理が開始されれば、刑事被告人として原則的に公判期日に出頭する義務を負い、場合によれば勾留された状態で公判審理を受けることもあり、この点からも職務遂行が阻害されることのあるのは免がれない。
 病院職員が公訴の提起を受けたとき、その者の身分を保有させたまま、職務に従事することを拒絶する措置である休職とすることができる旨の前記就業規則第五二条第五号が設けられたのは、そのようなところから考えられ、決して不合理な規定であるとはいいえない。
 ところで、原告は前示のように主事補として、病院の調度課に勤務し、備品消耗品を取扱っていたものであることが原告本人の供述より認められるが、同供述によれば、原告は勾留のまま起訴され、昭和三六年六月八日釈放されたものであることが認められる。そして、起訴にかかる三箇の犯罪事実の法定刑も決して軽いとはいえず、職場内の行為で労使関係、経営秩序に関連を有し、内容的にみても事案軽微とはいい難い点よりすれば、その発生については病院側にも責任がある紛争の一局面が訴追の対象であり、病院においては起訴休職者を無給扱いと定めていること前示のとおりであることを考慮しても、いまだ本件休職処分を目して前示起訴休職制度の目的を逸脱したものあるいは権利の濫用とまではいうことができない。