全 情 報

ID番号 03035
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 安部一級土木施行監理事務所事件
争点
事案概要  会社がA人材銀行に提出した求人カードに基づいて募集・採用された労働者が約二年二カ月勤務した後に退職する際に、右求人カードに「賞与・年四カ月分、昇給年六パーセント」と記載されていたとして、右求人カードに対応した賞与、昇給分等を請求した事例。
参照法条 労働基準法15条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金
労働契約(民事) / 労働条件明示
裁判年月日 1987年3月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 10732 
裁判結果 棄却
出典 労働判例495号16頁
審級関係
評釈論文 浜村彰・労働法律旬報1175号16~25頁1987年9月10日
判決理由 〔労働契約-労働条件明示〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金〕
 在職中に新規得意先の開拓に成功したことはなかった。
 以上の事実によれば、原告と被告会社との間の雇用契約の締結に際しては、賞与や昇給についての明示の合意はされなかったことは明らかであるが、被告会社がA人材銀行に提出した求人カードには「賞与 年四か月分(基本給の)、昇給 年六パーセント」と記載されており、これをどのように評価すべきかが問題である。右求人カードの記載は、職業安定法一八条の規定する労働条件明示義務に従って記載されたものであるところ、求人カードの果たす機能に照らすと、ここに明示された労働条件は、一般的には、これと異なる明示又は黙示の合意のないかぎり、労働契約の内容となるとするのが契約当事者の意思に合致するものと解するのが相当である。ただし、賞与や昇給については、事業の業績や物価の動向等の経済情勢の変動等の未確定要素に大きく左右されるものであることは明らかであるから、求人カードに記載された条件を労働契約の内容とすることが直ちに契約当事者の意思に合致するものともいえず、労働契約締結前後の事情をも考慮してこれを決するのが相当である。そして、被告会社は従業員数人の小企業であること、労働契約の締結に際しては賃金について双方の希望意見を交換しているが、賞与や昇給については何らの意見交換もされていないこと、その後の一般的な賞与の支払時期や昇給時期においても原告は何らその支払や昇給の請求をしたことは全く無く、支給された賃金を異議なく受領していることからすれば、求人カード記載の賞与や昇給は一応の見込みにすぎず、これがそのまま労働契約の内容となったものではないと解するのが相当である。