全 情 報

ID番号 03049
事件名 従業員としての地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 高松市水道サービス公社事件
争点
事案概要  経営の悪化に対処し経営合理を図るための合理化策として従業員に任意退職を勧奨し、あらためて請負契約を締結する方策をとっていたケースでこれに応じない従業員が整理解雇された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1987年4月9日
裁判所名 高松地
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 38 
裁判結果 却下
出典 時報1256号114頁/労働判例513号71頁/労経速報1323号7頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 ところで、一般に、企業がその経営合理化のためにいかなる方策をとるかは、経営の自由の一環として使用者の裁量に委ねられているものである。すなわち、本来、企業には経営の自由があり、経営に関する危機を最終的に負担するのも企業であるから、企業が自己の責任において企業経営上の論理に基づいて合理化方策(解雇を含む。)をとる経営上の必要性の有無を判断するのは当然のことであり、また、その判断については、使用者に広範な裁量権があるというべきである。したがって、就業規則等において、従業員の解雇を「経営上やむを得ないとき」に限定している場合であっても、その条項は、当該企業の経営上の合理的判断によれば、解雇が必要であると認められるときは、解雇権が発生するとの趣旨を規定したものと解するのが相当である。なお、右の経営上の必要性の判断は、当該企業全体としての観点からなされる必要はなく、少なくとも合理化方策をとる必要があるか否か等の判断に関する限り、当該企業の各部門ごとの判断で足りるものというべきである。かかる見地から本件をみるに、前記一及び三における認定事実に照らすと、債務者がその集検事務部門を請負契約体制で処理することとしたことは、債務者の経営上の判断として十分合理的なものと考えられるところであり、その目的を達するために債務者が任意退職の勧奨に応じなかった債権者らを結局において解雇すべきものとしたのも、これに代わる次善の策を容易に想定しえない本件においては、その目的と手段ないし結果との間に均衡を欠くとはいえないと考えられる。したがって、本件解雇には、勤務規則12条1項2号所定の解雇事由が存したものというべきである。
(中略)
 しかしながら、債務者が集検事務職員との契約関係を請負契約関係に改めるとの合理化方策をとるに至った経緯、特に、債務者の経営悪化状態と、その一因をなす集検事務部門における赤字発生状況、集検事務職員の勤務実態及び右合理化方策の具体的内容等を総合的に考慮すると、右2のような問題点があるとしても、このことから本件解雇が解雇権の濫用に当たると即断することはできない。