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ID番号 03075
事件名 損害賠償本訴請求事件/同反訴請求事件
いわゆる事件名 大隈鉄工所事件
争点
事案概要  労働者が業務遂行中に重大な過失(深夜勤務中の居眠り)によって大型プレナーに損傷を与えたことにつき、使用者が労働者に対して損害賠償を請求した事例で、労働者も会社のとった出勤停止処分、解雇等の措置を争って反訴を提起した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
解雇(民事) / 解雇権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1987年7月27日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 525 
昭和48年 (ワ) 1537 
裁判結果 本訴認容,反訴棄却・却下
出典 労働民例集38巻3・4号395頁/時報1250号8頁/タイムズ655号126頁/労経速報1299号12頁/労働判例505号66頁
審級関係
評釈論文 中島正雄・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕42~43頁1995年5月/田上富信・判例評論355〔判例時報1279〕2~10頁1988年9月1日/田上富信・判例評論358〔判例時報1288〕156~162頁1988年12月1日/田畑豊・昭和62年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊677〕68~69頁1988年12月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 被告が本件プレナーの作業中右のとおり最少限七分を下まわらない時間居眠りをしたことは、その間、被告がプレナー工として要求される十分な労務を提供しなかったことにほかならないから、これが原告に対し債務不履行に当たることは明らかである。そして被告の右のような債務不履行がなければ前記のような過剰切削も本件プレナーテーブルのキズも生じなかったのであるから、被告はその責任を阻却すべき格別の事情が認められない限り本件事故に対し、債務不履行による責任を免れないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換〕
 被告が本件出勤停止処分の取消要求をしたに止まる段階において、そのこと自体を把えて懲戒解雇事由に該当するとすることは、前記のとおり、就業規則や労働協約のうえでは不利益処分に対する異議申立が認められているわけではないとはいえ、言論活動として、あるいは訴訟法や労働関係法規に則って裁判所等の公的機関に不服を申立てることは当然認められるべきものであるから、そのような自由まで制約することにもなりかねず、許されないものと解すべきである。いずれにせよ、被告の本件出勤停止処分の取消要求及びA人事課長らの説得等に応じなかった行為をもって懲戒解雇事由に該当すると認めることはできず、従って、被告に同規則八-一〇(一)(c)所定の解雇事由がある旨の原告の主張は採用できない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件一次解雇の発端は、被告が出勤停止処分の取消要求書を提出したことを本件事故に対する反省心の欠如とみたことにあるが、これが反省心の欠如に結びつくものでないことや、企業内における処分とはいえ、懲戒処分等の不利益処分を受けた者が処分に服した前後を問わず、これに不服があるときは、異議を述べ、あるいはその適否を争う自由は尊重されるべきこと、最近の勤務成績を除けば、被告は昭和三一年中学校を卒業すると同時に原告会社へ養成工として入社し、以来一〇数年余にわたり主にプレナー工として人並みに勤務してきたこと、更に、事故再発の可能性は被告のこれまでの事故歴、勤務成績に照らすと、もっぱら深夜勤務の適格性に問題があるのであって、他部署へ配置転換することによりその勤務状態を改善する余地も考えられないでないこと等からすると、この時点において、被告を原告会社外へ一方的に放逐するのは重きに過ぎる処分というべく、結局、同(d)(g)に該当するとしてなされた本件一次解雇は解雇権の濫用として無効と認めるのが相当である。
 (4) 右のとおりであって、同規則八-一〇(一)(c)(g)については、それが懲戒解雇事由が存することを理由に普通解雇するのであるから、手続の厳格性に徴し同事故に該当しない以上、普通解雇も無効といわざるをえず、また、同(b)については普通解雇であって、それについては本来使用者にその自由が留保されているのであるが、原告が就労規則に普通解雇事由を列挙した趣旨や、これまで認定の本件解雇に至る一連の経過からすると、これらに該当する事実が認められない以上、同条項に基づく解雇も同じく無効である。同(d)(g)についてはこれに該当する事実が認められるが、解雇権の濫用であって無効である。