全 情 報

ID番号 03091
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 北陽電機事件
争点
事案概要  雇用契約の期間を一年として雇われた短期パートタイマーが期間満了を理由として雇止めされたケースで、右雇止めの効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1987年9月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ヨ) 5219 
裁判結果 却下
出典 労経速報1302号3頁/労働判例504号25頁
審級関係
評釈論文 新谷眞人・季刊労働法146号194~195頁1988年1月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 3 以上認定の事実によれば、申請人らと被申請会社との間の雇用契約は、第一回目が昭和五九年五月七日から同六〇年五月六日、第二回目が同年五月七日から同年一一月六日までとする期間の定めのある労働契約であり、その期間の趣旨は、いずれも文字どおり、契約の終期を定めたものであることが明らかである。
(中略)
 一般的に、雇用契約に期間を定めることは、その期間が一年以下である限り当事者の自由であって、民法、労働基準法その他の実定法上も、短期の期間を定めた雇用契約を締結すること自体を制約する規定はないから、このような制度を採用するか否かは、使用者側の裁量に委ねられているといわざるを得ない。したがって、一年以下の有期の雇用契約を締結するには、常に、「相当な理由」又は「社会的合理性」を必要とすると解することは困難である。ただ、右有期の雇用契約の採否が使用者側の自由裁量に委ねられるといっても、労働者保護の観点からそこには自ら限界があり、専ら労働条件を潜脱する等、反社会的な不法な意図に基づいてなされるような場合には、公序良俗違反として、無効とされる余地はある。
 これらの観点から本件についてみるに、前認定の事実によれば、申請人らの担当業務が、一時的、臨時的なものではなく、被申請会社の恒常的業務の一部ということができるが、その作業内容は、単純作業であって、必ずしも特殊技能を要するものではなく、これにつき短期パート制度を採用したからといって、これが著しく不相当、不合理であるとまでいうことはできない。のみならず、前記のとおり被申請会社の短期パート制度の導入の主たる意図が、従業員の雇用調整にあるけれども、申請人ら担当のような単純作業について、前認定のような正社員、嘱託社員と異なった簡単な採用手続により、しかも、労働条件、処遇を異にする短期パートを採用することは、企業経営上の合理的必要性に基づくものとして許されるべきものと解するのが相当である。そして、前認定のとおり、被申請会社では、正社員、嘱託社員に対比してパートタイマーの勤務状態、ことに中途退職、欠勤率において著しい差異があったが、短期パートをそのような勤務状態の労働者として処遇、対応してきたのである。
(中略)
 また、短期パート契約締結に際し、労働者が真意で、有期の契約であることを承認して、契約しなければならないことは論を待たないが、労働契約も契約である以上、右をもって足り、それ以上に、それが客観的事情に基づくものであることまで必要であり、これを欠く時は無効であると解するのは相当でない。
 申請人らは、前認定のとおり、本件雇用契約締結に際し、右契約の期間について、新聞の折込み広告、あるいは採用面接時におけるA課長の説明により、第一回目の契約期間が一年、再契約期間が六か月であり、右期間以上の雇用がなされないことを十分知悉しており、そのうえで、特に何らの異議を留めないで雇用に応じ、かつ、その旨の記載のある各雇用契約書に署名押印しているのであるから、真実、本件雇用契約が短期のパート契約であることを承認して締結したものというべく、また、その期間についても、最大限二回の契約で通算一年六か月の雇用期間に限られていることも容認していたのであるから、本件雇用契約締結当時、右期間を超えて雇用契約が継続されるであろうとの期待もなかったものと解される。
 もっとも、前認定のとおり、申請人らは、後日になって雇用契約期間経過後も、被申請会社での継続就労を希望するようになったことが明らかであるが、このことより、締結時に遡って、本件雇用契約が真意に基づかずに締結されたものと見ることもできないから、右事実の存在も右認定に消長をきたすものではない。