全 情 報

ID番号 03102
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ミザール事件
争点
事案概要  営業所の事務職員に対する解雇の効力が争われたケースで、右解雇が整理解雇として行われたものか否か、解雇につき承認がなされたか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1987年10月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ヨ) 1753 
裁判結果 認容
出典 労働判例506号41頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 ところで、人員整理が原則として使用者の自由裁量に委ねられた事項であること自体については異論がないところであるが、整理解雇は労働者にとっては自らの責に帰すべき事由がないのに使用者の一方的な都合でその生計の途を奪われる結果を紹来するものとなるのであるから、衡平の観念によれば、使用者の右裁量権には自ら制約が伴うものと解され、これを逸脱した場合は解雇権の濫用として当該解雇は無効に帰すると解される。
 そして、当該解雇が解雇権の濫用にあたるか否かの具体的判断は、【1】人員削減の必要性、【2】人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性もしくは解雇回避努力、【3】被解雇者選定の妥当性、【4】解雇手続の妥当性等の諸観点から当該解雇がなされた具体的経過等を総合的に検討考慮して、なされなければならない。
(中略)
 (二) 使用者は、人員削減を実現する際には、配置転換、出向、一時帰休、希望退職の募集など他の手段により解雇を回避する努力をする信義則上の義務があると解すべきところ、被申請人は昭和六一年六月から八月にかけての第一次人員削減以来一時帰休制、希望退職募集等の方策は一切採用しないまま整理解雇の手段のみを選択してきたこと、本件解雇がなされた経緯もこれと同様であり、しかも申請人に対しては任意退職の勧誘さえもなされなかったことは前認定のとおりであり、被申請人においては出向先はなく、会社の規模の点からして配置転換には限界があることを考慮しても、被申請人が解雇回避努力をなさなかったことは明白であるといわなければならない。
 (三)また、使用者は、整理解雇の対象者に対し、整理解雇の必要性、規模、時期等につき納得の得られるよう説明を行い誠意をもって協議すべき信義則上の義務があると解すべきところ、被申請人は、申請人に対し、業績不振と人員削減の必要性について概括的な説明を行ったのみでその場で解雇通告を行ったこと前認定のとおりであり、これによると被申請人の本件解雇手続は右義務に反するものとして、妥当性を欠くものであるといわなければならない。
 (四)以上の記載のとおり、本件解雇は、人員削減の必要性自体についても疑問が残るほか、解雇回避努力を欠き、解雇手続の妥当性も欠くというものであるのであって、更に被解雇者選定の妥当性について判断するまでもなく、本件解雇は無効に帰着するものと判断せざるを得ない。
〔解雇-解雇の承認・失効〕
 申請人は昭和六二年二月二五日ころから退職するまでの間本件解雇に関して明確に不満の意を表明することなく勤務を続け、事務引継ぎも自ら行ったことは前認定のとおりであるが、このような退職前一ケ月余りという短期間の申請人の言動、勤務態度のみをもってしては解雇の効力を争わない旨の意思が表明されたと判断することはできないというべきである。現に申請人は退職となってほどなくの昭和六二年四月二七日には本件解雇の効力を争って本件仮処分申請に及んでいるのである。そして、疎明資料によると、被申請人が同年五月二五日申請人の銀行預金口座に退職金一六〇万三七〇〇円を振込んだところ、申請人は同日右口座(振込直前の残高三万六八八四円)から二一万円を引出していることは一応認められるものの、これはもとより退職金全額の受領といえるものではなく、その後の引出しの事実は疎明されていないのであって、右引出しのころ申請人は本件仮処分申請の審理において解雇の効力を正面から争う態度を鮮明にしていたのであるから、右退職金の一部引出しの事実を併せ考慮しても本件においては申請人の解雇の承認があったものと認めることはできないというべきである。また、本件は、およそ被解雇者がいったんは退職金を受領して解雇の効力を争わず年月を経てから突然解雇無効を主張して訴訟を提起したというものではなく、解雇が有効であることを前提にその間に形成されてきた企業秩序を覆えすことになるといったものではないのであるから、解雇無効の主張が信義則に反することにはならないというべきである。