全 情 報

ID番号 03126
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 大阪暁明館事件
争点
事案概要  就業規則の付属協定である給与規定に昇給の要件が定めてあり、実質上、「前回の昇給時から一年経過し、うち三ケ月以上欠勤したことがないこと」という要件のみで運用されているときは、右要件を充たしたときは、使用者が欠格要件を主張・立証しないかぎり、昇給させる義務を使用者は負うとした事例。
 就業規則の付属協定である給与規定は、事実たる慣習により法的規範性を有するとした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
裁判年月日 1984年7月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 3998 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例451号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 以上の事実を前提として給与規定を解釈すれば、被告がある職員を昇給させるときには当該職員につき昇給に必要な期間を経過したか否か、同規定二四条の欠格事由に該当するか否かを調査し、その調査の結果、被告が当該職員を昇給させるべきものと判断したときは被告から職員に対し昇給させる旨の意思表示をすることにより当該職員につき昇給するものと解すべきである(なお、<人証略>によれば被告がなす定期昇給はとりたてて辞令を交付することなく、給与明細書に昇給した賃金を記載し、現実にこれを支給していることが認められるが、右は、被告が給与明細書に昇給した賃金を記載し、現実にこれを支給することにより、職員に対する昇給の意思表示をしているものと解せられる。)。
 したがって、給与規定二二条の規定が、その経過期間を経過した選定者らに対し何らの意思表示を要することなく、当然に被告が定めた給与等級表の各一つ上の等級の基本給に昇給するとの原告の主張についてはその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
 三 しかしながら、給与規定二二条に定める昇給資格は、(一)、前回の昇給時から一年を経過したこと、(二)、給与規定二四条に該当しないことの二点であり、これと、給与規定二四条はその性質上限定的列挙と解せられること、しかも、右(一)の要件及び給与規定二四条一号の規定に該当するか否かは当事者双方にとって判断するうえで疑義がないこと、並びに、前認定の昭和五五年度以前の定期昇給の実態に鑑みれば、原告(職員)側において右(一)の要件があるときは、被告は右(二)の要件を主張、立証しない限り、選定者らに対し、給与規定に基づき同規定引用の給与等級表の一つ上の等級に昇給させるべき債務を負っているものと解するものが相当である。
〔就業規則-就業規則の法的性質〕
 四 そこで、被告の主張1について判断するに、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているものということができる(最高裁昭和四三年一二月二五日大法廷判決、民集二二巻一三号三四五九頁参照)。
 (証拠略)によれば、被告の給与規定は就業規則の付属規定であり、その規定はいずれも合理的であり、しかも、被告は昭和三五年一〇月一日に就業規則及び給与規定を制定して以来現在まで、被告とその労働条件は右就業規則及び給与規定に従って運用されてきたものであるから、被告の就業規則及び給与規定は被告に勤務する労働者のみならず、被告自身をも法的に拘束するものというべきである。