全 情 報

ID番号 03142
事件名 地位確認等本訴請求事件/損害賠償請求事件/損害賠償反訴請求事件
いわゆる事件名 興除農業協同組合事件
争点
事案概要  農業協同組合の参事という職務上の地位を特定した雇用関係においては、参事解任は同時に雇用関係をも終了させる事由になるとした事例。
 農業協同組合参事にも労基法二〇条が適用されるが、即時解雇の意思表示後三〇日を経過した時点で解雇の効力が生じているとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 上司反抗
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 1984年12月26日
裁判所名 岡山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 115 
昭和55年 (ワ) 404 
昭和56年 (ワ) 597 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集35巻6号697頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-上司反抗〕
 そうすると、原告が参事を解任された理由は、直接の上司たる組合長との意見、感情の対立が生じ、容易に修復できないような状況に立ち至っていたことから、組合の組織運営を円滑にし、その業務執行が正常にされるようにするためには参事を解任する必要があると判断されたこと、及び理事から互選されて組合の日常的業務を統括する立場にある組合長がこれを補佐する地位にある原告を信任できないと考え、他の理事も組合長の意見に従い原告を参事として信任できないと判断したことにあると認められるので、組合長が理事会において原告について指摘した個々の事実が果たして真実であったか否かを判断するまでもなく、原告の解任は前述した参事の地位、性格に照らし組織運営上の都合による相当な理由によるものであるということができる。
 したがって、原告の権利濫用、信義則違反の主張は採用できず、原告は昭和五二年九月二〇日の理事会において解任決議がされたことにより被告組合の参事たる地位を失ったものということができる。
 五 続いて、以上のとおり、有効に原告の参事解任がされた場合、被告組合との雇用関係が終了するか否かにつき検討するに、前記三で述べたように、一般的には参事を解任されたことにより雇用関係は当然に終了するものではないが、農協法が参事という制度を設けた趣旨からすると、参事以外の一般的な職員の役職に就くことの予定されていない、参事という職務上の地位を特定した雇用関係であるような場合には、参事解任は同時に雇用関係をも終了させ得る事由になるというべきである。
 そこで、原告の場合につき検討するに、前記四に掲記した各証拠によると、次の事実が認められる。
 1 原告は、興除地区内で農業を営んでいる被告組合の正組合員であり、昭和四三年五月一三日から三年間同組合の監事を務め、さらに昭和四六年五月一三日から三年間は専務理事となり組合長を補佐し組合の業務を処理していた。そして、右任期途中で被告組合ではA参事が定年退職したが、その後は参事は空席のままであった。
 2 昭和四九年初めごろ、原告は同年五月からの任期の理事には出身部落の西畦部落から立候補しないことを決めたが、原告が長期間被告組合の業務に従事し、農協業務にも精通しており有能であるとの評判も高かったため、特に当時の佃組合長が原告を参事にするよう働きかけ、同年四月に開催された理事会で、同年五月一三日から原告を被告組合の参事に選任する旨の決議が出席理事全員の賛成でされ、原告は以後も引き続き被告組合において参事として組合長を補佐しその業務に従事してきた。
 以上のとおり認められ、右事実に照らすと、原告は被告組合の専務理事という組合長に次ぐ地位の役員からその手腕を買われて参事に選任された者で、従前の地位や選任の経緯からして、参事を解任された後においてもなお職員の地位にとどまることは全く予定していない、参事という地位を特定した雇用関係にあったものであると認められる。
 そうすると、原告の参事解任により当然に被告組合は原告との雇用関係をも終了させることができるものというべく、また前記三で述べたとおり、参事解任は原告については解雇事由を定めた就業規則三八条三号の「止むを得ない事業上の都合により勤務を要しない場合」に該当し、又はこれに準ずるものとして正当な解雇理由になるものと解される。
 六 最後に、労基法二〇条所定の解雇予告手続の点につき判断する。
〔解雇-労基法20条違反の解雇の効力〕
 原告の場合は被告組合の参事という地位を解任されたことに伴う解雇であるところ、労基法二〇条は労働者の保護のための規定であり、参事は一般職員とは地位は異なるものの労務を提供して賃金を得ている点においては他の職員となんら変わることなく、参事職にあった者に同法条を適用しても解任を実質的に制約するものではないから、懲戒解雇ではないことが明らかな原告についても解雇予告制度の適用があるというべきである。
 そこで判断するに、昭和五二年九月二一日、被告組合から原告に対し参事解任・職員解雇の辞令を交付したことは当事者間に争いがないが、その際原告に対し予告手当を支給する旨告知した、との被告組合の主張についてはこれを認め得る証拠は存せず、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、被告組合は原告を解雇するに当たり解雇予告手当については全く念頭になく、即時解雇を告知したものであると推認される。
 しかしながら、被告組合が、昭和五二年一一月四日付内容証明郵便で解雇予告手当の受領を促し、次いで同月一二日原告宅にこれを持参したが受領を拒絶され、同月一七日予告手当相当分の金員を弁済供託したことは当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によると、右の予告手当支給の手続は、原告が同年一〇月に、解任決議をした理事会の録音テープ等の証拠保全の申立をし、その決定が同年一一月初めごろ被告組合に送達され、原告が解任を争う姿勢を明らかにしたため、解雇手続の不備に気付いてはじめてされたものであると推認される。そうすると、本件解雇は即時解雇としては効力を生じないが、被告組合が即時解雇にあくまで固執する態度を示しているとまでは認め難いので、原告は解雇の告知を受けた日から三〇日を経過した一〇月二一日をもって被告組合との雇用関係も終了したものといわなければならない。したがって、右期間の賃金請求権は、同年一一月一二日に予告手当相当分として原告に弁済の提供があったもので、その後弁済供託がされているから、右賃金相当分につき有効な弁済供託があったものとしてこれを被告組合に請求することはできないこととなる。