全 情 報

ID番号 03228
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 電々公社事件
争点
事案概要  来客と応待中の営業課長に対し大声で姓を呼び捨てにした上、そのあとその行為を諭した同課長を殴打・転倒させ全治三週間の傷害を与えたことを理由とする電々公社職員の懲戒免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
日本電信電話公社法33条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1981年6月30日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (モ) 138 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 訟務月報27巻10号1842頁
審級関係
評釈論文 井筒宏成・昭和56年行政関係判例解説256頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 被申請人と職員の法的関係が私法上のそれであること前述のとおりであるが、被申請人の前記のような高度の公共性から、被申請人の職員は単なる一般私企業のそれと異なり、一般社会から公共性の高い企業に勤務し、その職務に専念しているものとしてこれにふさわしい評価を与えられているのである。他方、公社法三三条一項には、被申請人の職員が懲戒事由に該当する行為をなした場合、懲戒権者は懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定されているが、当該職員を処分すべきかどうか、また処分するときにはどの処分を選択すべきかについては、その具体的規準を定めた法律上の規定はなく、また、被申請人の就業規則(〈証拠略〉)、懲戒規程(〈証拠略〉)にもこれにつき明確な規定も存しないのである。以上のところと右懲戒権が職員の非違を戒め、被申請人の秩序維持を図ることを目的として与えられるものである点からすると、右懲戒権者は職員の懲戒に当り、右懲戒の目的達成を図る見地から、懲戒事由に該当する行為の態様のほか、その原因、動機、状況、結果、さらに当該職員の右行為の前後における態度、処分歴等諸般の事情を総合勘案した上で、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定しうるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合してなされるものである以上、平素から社内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、到底適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故に、右判断については懲戒権者の裁量が認められているものと解せられる。したがつて、懲戒権者の処分の選択が当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものでないかぎり、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとして、懲戒処分の効力を否定できないものと解すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 申請人の本件非違行為は、勤務中職場において、直属の上司に対し、自らなしうる業務を代替させようとして営業課顧客の面前で同人の姓を呼び捨てにし、これを注意した同人に対し右注意を自己及び分会への中傷・誹謗と曲解して反発興奮して暴言をはき、突発的短絡的に顔面を殴打、突き倒し傷害を加えたという一連の処為であって、被申請人の企業秩序に対し直接かつ重大な侵害を与えかつ、顧客の企業に対する信頼感を失わせるおそれが大きいものであり、その態様も質の悪い方に属するといえ、Aの受傷も全治三週間の診断を受けたものであつて軽微なものと言い去ることはできず、したがつて、右受傷の主傷である臀部打撲症が、偶々足許にボテ箱があつてこれに転倒したためであり、偶然の要素が強いこと、右暴行行為は短時間でおさまり、これによる業務支障の程度はそれほど大きなものではなく実際の治療を受けた回数がわずかであつたこと等を考慮しても、申請人の本件非違行為自体の情状は軽いとはいえない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 前記のとおり懲戒処分の裁量判断においては非違行為の外諸般の事情を総合勘案してなされるところ、まず申請人は本件懲戒手続を申請人の弁解をきかずになしたため、弁解聴取の際の事情が勘案されていない点で裁量が不当であるというが、弁解をきかないことが不適法でないことは前示のとおりであるのみならず、前認定の本件事案、就中、本件事件後の申請人の態度に照らせば、仮に右弁解の機会が設けられたとしても、この弁解のなかで懲戒裁量をなすに当り申請人に有利に考慮すべき事情が判明したとは到底認められないから、右弁解を聴取しなかつたことは本件懲戒裁量の合理性欠缺の根拠事由となしえない。