全 情 報

ID番号 03239
事件名 地位保全等仮処分異議事件
いわゆる事件名 スーパーバッグ事件
争点
事案概要  短期大学の卒業歴を高卒とし、かつ職歴を詐称したことにつき、右経歴詐称を理由とする懲戒解雇を有効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1980年2月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (モ) 2927 
裁判結果 取消
出典 労働判例335号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 2 そこで、被申請人の就業規則が本件の如き経歴詐称に対して懲戒事由をもって臨んでいることの合理性について考えるに、企業は、法律に抵触しない以上、その雇用する労働者の採用条件を自由に定め得るのであり、企業における雇用関係は、単なる労働力の給付関係に止まるものではなく、労働力給付を中核とした継続的人間関係であることに顧みると、企業は、労働者と雇用関係を結ぶに当って、労働力の評価に関する事項、例えば、学歴、技能等のみならず労働者の企業への適応性に関連する事項、例えば、性格、職歴等の事項をも調査し、もしくは、これらの事項についての申告を労働者に対して求め得ることは当然というべく、労働者としても、右の如き申告を求められた場合は、真実の申告をなすべき信義則上の義務があるといわねばならない。労働者が、右義務に違反して企業に入った場合、企業はこれによって、労働者の適正な配置を誤らされ、企業秩序に混乱を生じ、使用者との信頼関係が破壊されるに至ることは当然に予測され得ることであるから、被申請人がその就業規則において、経歴詐称によって雇用された場合は懲戒事由に該当する旨を定めていることには合理性が認められるといえる。
 (中略)
 これを本件についてみるに、以上認定した事実によると、被申請人は所沢工場におけるオペレーター従業員に関しては、その作業の特質、従業員の定着性等の考慮から、その採用条件を高卒以下の学歴の者に限り、この方針を厳守していたものであるが、申請人は、公共職業安定所における被申請人の公開用求人カードの記載、被申請人所沢工場の牧野係長への電話から、被申請人の右採用条件を知りながら、敢えて、オペレーターとして被申請人と雇用関係を締結するために、短期大学卒業という真実の学歴を秘匿したものであり、被申請人としても、事前に申請人の真実の学歴を知っていたとすれば、申請人と労働契約を締結しなかったであろうと推測される。これを客観的にみても、被申請人は、所沢工場の従業員(オペレーターに限らず)を高卒以下の学歴の者のみで構成しており、右学歴の等質性を前提として、右工場の職制、人事管理体制を組織していたのであり、未だこの方針に例外を設けたことはない(本社派遣の特殊研究に携わる技術者は別として)のであるから、右企業秩序を維持するために、大学もしくは短期大学卒業者をオペレーターとして採用しないことには十分な合理性が認められる。申請人の学歴詐称は前記のとおり、極めて意図的なものであって、背信性が強く、被申請人は申請人のかような学歴詐称による所沢工場への入社により、前記のような従業員構成、人事管理体制を混乱せしめれらたものであり、被申請人と申請人との信頼関係は、申請人の経歴詐称の発覚により、ほぼ完全に破壊されたものと考えられる。
 申請人の職歴詐称についてみるに、申請人は昭和四四年四月から昭和四九年一〇月までの五年七か月間に及ぶ職歴の大部分を詐称したものである。すなわち、申請人は右の間に三度も職を変え、その中には単なるアルバイトに過ぎないものもあり、また、無職の時期もあったのに、これらの事実を全て秘匿する反面、昭和四九年四月から同年一〇月までの極めて短期間経営したにすぎないCOM造形社なる樹脂造形の事業を、昭和四四年四月以来五年数か月間も継続して経営したかの如く、被申請人に申告したものである。しかも、臨時雇用契約書には、申告した事項、特に前職歴事項が事実と相違している場合は、労働契約を解除する旨の明文の契約条項があり、申請人は、それにもかかわらず右詐称をしたものであるから、その詐称の内容、程度共に極めて重大で、背信性の強いものであり、被申請人の申請人に対する人物評価を大きく誤らしめるに足りるものであったといわざるを得ない。
 そして、かような経歴詐称が事前に発覚していたとすれば、被申請人は申請人との労働契約締結を躊躇したであろうことも、また、疑いのないところである。
 以上のとおりであるから、被申請人が申請人の本件経歴詐称に対して、懲戒解雇をもって臨んだことには相当の理由があるといわざるを得ない。