全 情 報

ID番号 03268
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 サガテレビ事件
争点
事案概要  業務委託契約に基づく放送会社への派遣労働者と放送会社との間に労働契約関係があるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 派遣労働者・社外工
裁判年月日 1980年9月5日
裁判所名 佐賀地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 44 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報998号103頁/労経速報1068号3頁/労働判例352号62頁
審級関係 控訴審/00135/福岡高/昭58. 6. 7/昭和55年(ネ)592号
評釈論文 山口浩一郎・判例評論273号47頁/小野幸治・労働経済旬報1184号18頁/大沼邦博・労働判例363号4頁/大沼邦博・労働判例365号4頁/大沼邦博・労働判例367号4頁/和田肇・ジュリスト754号120頁
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕
 (一) 被申請人会社の意思表示をどうみるか。
 被申請人会社が本件業務を外注した事情から、昭和五〇年六月二〇日の申請人らとの無関係社告に至るまでの被申請人会社には、申請人らとの間に労働契約を締結するという意思は認められないどころか、それを否定する意思が貫徹していたということができる。
 しかし、それは法形式上のものにすぎず、実態は申請人らとの間に使用従属関係が存在するもの、即ち労働契約が存在すると評価される方がより自然であり、しかも、右の法形式そのものがA会社と被申請人会社間の業務委託契約を基本に据えていたところ、同契約は、前に検討したとおり職安法四四条に違反し、公序良俗に反するものであった。しかるところ、既述のとおり、職安法四四条は労働者を保護し、労働の民主化をはかる規定であるから、右無関係社告によって被申請人会社が違法な労働者供給事業への加担から身をひく結果になるとはいえ、それが同条の目指す労働者保護及び労働の民主化をはかることに全く逆行する結果をも招来することは容認すべからざる背理であって、その逆行する結果を回避すべき責任は労働者たる申請人らではなく、使用者たる被申請人会社で負担するのが相当であり、更に、被申請人会社の職責が「健全な民主主義の発達に資する」(放送法一条)ことにあることを考えるとき、右契約を盾に、申請人らの提供した労働を、申請人らとの労働契約の意思表示の合致と無関係のものと主張することは、法の許容しないところと解される。そして、申請人らと被申請人間の客観的に存した使用従属関係の有無とその内容は単に事実上のものにとどまるというのでは正確な説明がつき難く、労働契約という概念でのみ架橋が可能となることに思いを致すと、表示上から客観的に推認される被申請人会社の意思は、昭和五〇年六月一日時点で申請人らとの間に労働契約の存在することを容認していたもの即ち、後記する申請人らの労働契約締結の申込みを黙示的に承諾済みであったというに帰するのである。
 (二) 申請人らの意思表示はどうか。
 A会社がB会社から本件委託業務を引き継ぐにあたり、改めてB会社従業員から履歴書を徴し、新たに従業員を採用する際もA会社名で新聞広告を出し、採用面接もA会社が行ない、また申請人ら従業員を被保険者とする社会保険、失業保険等についてもA会社が事業主として加入手続をとっていたこと、A会社労組の各種要求及び団体交渉に対してはA会社のCがその相手方となり、A会社が回答していたこと、そしてA会社が、申請人らに対して、解雇通知を出し、解雇予告手当及び退職金を支払い、離職証明書を交付していることは前記認定のとおりである。これらからすれば、申請人らはA会社との間に法形式上は労働契約を締結する意思を終始持ち続けていたとも一応言うことができる。しかし、この労働契約が、A会社と被申請人会社との業務委託契約を抜きにしては、全く無意味なものであったことは、A会社が本件業務から手を引くこと、即ち申請人らの解雇という昭和五〇年六月五日付解雇通知が如実に物語っている。その上、右業務委託契約そのものが、職安法四四条に違反し、公序良俗に反するものであったし、昭和四九年四月のA会社労組結成以後は、申請人らも右のことを明確に問題意識として持ち、被申請人会社には長期的に社員化要求をしながら、A会社に対しては、それをテコにして、短期的に自らの具体的な労働条件の改善に取り組んできたのである。そうだとすれば、申請人らには被申請人会社に申請人らと労働契約を締結する意思表示があれば、いつでもこれを受け入れる意思を内外に示し続けて昭和五〇年六月一日を迎えていたということができるのであり、これを換言すれば、表示上から客観的に推認される申請人らの意思は、昭和五〇年六月一日時点まで被申請人会社に対し労働契約の締結を申込み続けていたものと解されるのである。
 このことは、申請人らがA会社から解雇予告手当及び退職金を受けとり、又、失業保険金を受理する手続をとったからということだけで消長を来たすものではない。なぜなら、これらのことは、申請人らが解雇通告をされた後の日々の生活を担保する現実的な手段に他ならず、緊急避難ともいうべき所為であるうえ、申請人らも解雇予告手当及び退職金の受領につき異議を留めていること、前記認定のとおりだからである。
 (三) 黙示の意思表示の合致
 以上の検討からすれば、昭和五〇年六月一日の時点で、申請人らと被申請人会社間では、申請人らを被申請人会社の従業員として労働させる旨の黙示の意思表示の合致が既に存在していた、即ち、黙示の労働契約が既に成立していたと評価することができる。
 (四) その労働契約の内容はどういうものか
 右のようにいうことは、申請人らとA会社間の労働契約の存在を全面的に否定するものではない。即ち、昭和五〇年六月五日、申請人らがA会社から解雇通知をうけた時点で(勿論、この解雇の効力は別個の問題である。)、申請人らとA会社及び被申請人会社双方との間で労働契約が存在していた。これを二重の労働契約の併存といっても良いが、実態は、労働者たる申請人らにとって、A会社と被申請人会社の両者が使用者側として存在し、両者相まってはじめて、通常の労働契約における使用者たる地位にあった。(もっとも、A会社と申請人らとの労働契約についていえば、前記のとおり、職安法四四条違反の前記業務委託契約に奉仕するためのものであることから、その限度で効力を否定すべき部分もある。)そこで、仮に六月五日の解雇通告によって、A会社が右の労働契約関係から離脱する意思表示をしても、被申請人会社の使用者としての責任は残存するのみならず、申請人らがA会社との契約関係の終了を追認し、被申請人会社との労働契約の存在のみを要求してきた場合は(本件の場合はこれに当ることは、弁論の全趣旨より明らかである。)、使用者としての責任を全て顕在化させなければならないことになる。従って、従来A会社が使用者として果してきた限りでの労働条件は、申請人らと被申請人会社間で協議して内容を定めるべく運命づけられ、その他の労働条件、即ちA会社よりも被申請人会社が決定づけていた労働条件は従前どおり継続すべき筋合である。このことは別にしても、一片の通告(本件の場合の六月二〇日無関係社告)によって、勤労する申請人らの権利が被申請人会社から奪われてはならない、との労働契約上の最低の保障(このことは、解雇が自由かどうかの問題とは直接関係がない。)は、貫徹されなければならないと解される。というのは、使用者側である被申請人会社及びA会社の両者によって作出された疑わしくは不明朗な契約関係において、その相手方当事者たる申請人らに使用者としてどっちを選択するかの権利が付与されるのは当然であり、労働者たる申請人らの最後の保障は一片の通告によって労働契約が当然に終了させられてはならないとの身分保障に要約できるからである。
 (中略)
 これまで述べてきたところをまとめると、昭和五〇年六月(一日)時点で申請人と被申請人間には労働契約が存在しており、申請人らは被申請人会社の従業員たる地位にあったということになる。