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ID番号 03288
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 在日米軍横浜冷凍倉庫事件
争点
事案概要  地位協定にもとづき国に雇用され米軍に使用される労働者が米軍施設内におけるシャッターの故障による傷害をうけたことにつき、国に安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 民法416条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1979年3月30日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 1217 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報942号82頁/タイムズ394号118頁/労働判例329号64頁/訟務月報25巻8号2058頁
審級関係 控訴審/東京高/   .  ./昭和54年(ネ)1053号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 右認定の事実によれば、成程、原告が雇傭契約上の労務を提供するにあたり、被告において使用主としての直接の指導、統制、訓練その他の指揮監督の権限を有してはいないが、原告が米軍に使用され米軍の施設内で労務に従事すること自体が原告・被告間の雇傭契約の内容をなし、これに基づくものであるから、この場合米軍は、被告に代って使用主としての指揮監督をなすものであり、またこれに伴って被告に代って労務者に対する安全配慮義務を負うものであるということができる。一般的に、債務者が債務の履行にあたり履行代行者を用い、かつその用いることが許容されている場合に、債務者自身が債務不履行の責任を負うのは、債務者がその履行代行者の選任、監督につき過失がある場合に限定されると解せられるところ、本件のように被告が地位協定に基づいて米軍の日本における労務の需要の充足を援助するため、その労務に従事する日本人従業員(以下単に従業員という。)を提供する場合に、被告と米国ないし当該従業員を使用する米国機関との間に、いわゆる選任の問題が生ずる余地はなく、また私契約的な監督関係が生ずるものでもないことは言うまでもない。しかしながら、地位協定第一二条第五項では「賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働の条件、労働者保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。」と定められているのであるから、米軍が、日本人従業員の労務提供のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理もしくは使用者の指示のもとに提供する労務の管理にあたって、いわゆる安全配慮義務を尽すよう、被告は米国政府代理者もしくは基本労務契約担当官代理に対し、行政協定締結当事者としての立場から、具体的事例の発生に際しては、日本国法令(判例による解釈を含む)の内容を説明し、同法令に準拠して当該事例が処理されるよう要請すべき責務があり、この要請を行なわないかまたは行なってもその効果が得られない場合には、被告は、第二次的に日本人従業員に対して、雇傭主としての責任を負うに至ると解するのが相当である。このことは、被告が日本人従業員の勤務する施設および区域に関して労働法令上の検査権限を有する等の前記基本労務契約中の諸規定の上にも、日米合同処理ないし援助協力の趣旨のもとに、あらわれており、ここに、被告は、直接の使用者たる米軍を通じて、いわば間接的にではあるが、なお法律上の雇傭主としての立場に基づく雇傭契約に付随する信義則上の義務として、日本人従業員(雇傭契約等一定の法律関係に基づいて被告と特別な社会的接触の関係に入った当事者であればよく、必ずしも公務員である必要はない。)の本来の職務および事実上もしくは慣習上これに付随する職務から生ずる労働災害による危険に対して従業員をして安全に就労せしめるべき義務を負うものと解せられる。然るところ、前記一、二判示の事実によれば、被告との基本労務契約に基づき被告が提供した従業員の安全を被告にかわって保護すべき立場にある米軍はその義務を怠り、本件シャッターを通常有すべき安全性を備えないままの極めて危険な状態で放置したため本件事故が発生したものと認められ、他に不可抗力等被告もしくは前記のとおり被告にかわって従業員の安全を保護すべき立場にある米軍がその義務を尽したにもかかわらず本件事故が発生したことを認めるに足りる証拠は存しないから、被告には原告の蒙った損害を賠償する責任があるというべきである。