全 情 報

ID番号 03293
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 慈恵大学附属病院事件
争点
事案概要  病棟勤務の看護婦を医療機械の洗浄、貸出し等の部署に配転したことにつき、雇用契約の範囲内のものであるとした事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1979年4月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 6262 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1015号13頁/労働判例325号50頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 右認定の事実及び一の当事者間に争いのない事実に基づいて判断すると、原告被告間の雇用契約は原告が看護婦としての技能、資格を有することを前提として結ばれたものであるから原告が附属病院において従事すべき業務も一般の看護婦業務というべきである。雇用契約上それ以上の特定、個別化はなされていなかったから右の看護婦業務の範囲内で被告が原告に対し配転を命ずるについては原告の同意を要しないということができる。
 原告は中材室における業務が看護婦としての業務ではない、或は看護婦業務であっても特殊なものであって雇用契約の範囲外である旨主張する。成程、中材室業務の主たるものは医療器材の洗浄、滅菌、貸出し等の機械的単純労働であって看護補助業務の性格を否定できないけれども、右労務はもともと看護婦業務の一部であったものが、医療の大規模化によって専門化されるに至ったものであり、本質的には看護業務と評価しうるうえ、原告の中材室における業務は主任不在等の場合を含め、病棟勤務経験を有する先輩看護婦としての准看護婦以下職員の指導、監督などの業務も含まれていると解されるのであって、医療技術の進歩、被告大学附属病院の近代化と共に同室業務も複雑化し、多岐にわたる知識を要求されていることを考えると原告の看護婦としての同室における処遇が軽視されているともいえないのである。更に本件配転には原告に対して器材滅菌等による安全確保の重要性を認識させ、被告大学附属病院における医療の効率化、各部門の関連性を理解させるとの教育的目的も含まれていること及び就業規則で職種変更を命ずることがある旨定められていることを考慮すると原告の中材室における担当業務は雇用契約の範囲内において命じられたということができる。
 夜勤手当の収入減等原告にとって意に副わない点があるとしても、被告附属病院のように極めて多数の看護職員をかかえ、各職員の各科における勤務年数、習熟度、不公平の是正等多岐にわたる点を考慮しつつ、配転がなされねばならない以上、致し方ないというほかないのである。A総婦長が考慮した中材室における看護婦配置の必要性についても従来の同室における看護婦、准看護婦の人員増減の推移をみれば一応首肯できるし、各看護婦に幅広い知識を修得させるとの教育的目的による配転も附属病院が被告大学附属の病院であることを考えると肯ずけるものがあるから本件配転命令は被告の業務上の必要性に基づき、原告被告間の雇用契約の範囲内でなされたといわねばならない。
 従って本件配転命令には原告の同意が必要であるとの原告の主張は採用しない。