全 情 報

ID番号 03315
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 三和開発事件
争点
事案概要  上司と激しい言葉のやりとりをした後、身分証明書とバッヂを置いて帰り、その後出社しなかったことにつき、退職の意思表示があったものとした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法627条
体系項目 退職 / 任意退職
裁判年月日 1979年10月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 8239 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1031号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-任意退職〕
 1 本件雇用契約の終了原因について
 一般に期間の定めのない雇用契約は、当事者の一方の意思表示(解約の申入)によってこれを終了させることができる(民法六二七条)けれども、その表意者が労働者である場合(退職)と使用者である場合(解雇)とでは、これに課せられる労働基準法上の諸制限(同法一九条等)や諸効果(同法二〇条等)が異なるのみならず、同法九三条所定の効力を有する就業規則や労働組合法一六条所定の効力を有する労働協約上も種々の異なる取扱がなされているのが通例である。
 従って、期間の定めのない雇用契約が終了した場合には、その原因が労働者の意思表示(退職)であるか使用者の意思表示(解雇)であるかを確定する必要のあることがきわめて多く、本件もその例に漏れない。
 ところで、退職または解雇の意思表示については、法令上特別の方式によるべき旨の規定がないので、民法総則所定の意思表示に関する原則に従い、雇用契約を終了させる旨の効果意思とその表示行為によって成立し、かつ表示行為は、就業規則等に特別の方式によるべきことの定めのない限り、書面または口頭による告知のみならず、相手方に了知可能な挙措動作によってもこれをなしうるものと解すべきであり、このようにして成立した意思表示は、それが心理的圧迫を加えられて強要されたものである等任意になされたものでない場合を除き、当然には無効とならないものと解すべきである。
 本件についてこれを見ると、前認定の事実によれば、原告は、昭和五三年二月一二日夕刻、被告会社の当時の新宿支店長であったAと激しい言葉のやりとりをした後、Aの面前で被告会社発行の原告の身分証明書と被告会社から交付されたバッジを置いたうえ、「帰る」と言って同支店を退出し、翌日から同支店に出勤しなかったというのであるから、これによって被告会社を退職する意思表示をしたものというべきである。
 もっとも、前認定の事実によれば、原告は、前記不動産売買契約を成立させた後、AやBから種々の嫌がらせを受け、遂に感情を爆発させて右行為に出たものというべきであるが、右行為がAらによる再三の挑発的な言動に触発されてなされたというだけでは、未だ原告の退職の意思表示が任意になされたものでないということはできないから、これを当然に無効と見ることはできない。