全 情 報

ID番号 03320
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 東亜ペイント事件
争点
事案概要  組合役員である大阪工場技術部の技術職員に対する長期出張命令につき、業務上の必要性に欠けており、組合活動を理由とする不当労働行為であり、右命令拒否を理由とする懲戒解雇を無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1979年11月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和50年 (ヨ) 3212 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報957号109頁/労働判例332号54頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
  4 右事実によれば、当初の配転内示から本件解雇に至る過程において、被申請人は、組合中執および大阪工場支部役員の一部が申請人の支援について消極的であることに便乗して、申請人の問題の処理をめぐる組合の動きに再三干渉していたことが明らかであり(疎明によれば、組合中執は、六月中旬これらの干渉が不当労働行為になるのではないかとの声が組合員から出た際、これを無視することができず、調査委員会を設置したが、結局前記定期組合大会において、右干渉は確かに存在したが特にプレッシャー的な形ではなかったから不当労働行為として成立するに至らないとの組合中執見解が、出席代議員の多数によって承認されたことが認められる。)、また申請人の仮処分申請後における本件出張命令の実施留保、中労協付議、留保の解除といったいかにも不自然な一連の事実は、本件出張命令が実質的に配転であるとすれば、労働協約上の事前協議義務違反になるとの申請人側の攻撃を回避するためとられた苦肉の裁判対策と解されてもいたし方のないところである。
 (四) 以上(一)、(二)、(三)において検討したとおり、被申請人は申請人の組合活動を嫌悪していたこと、本件出張命令の業務上の必要性について払拭しがたい疑問があること、当初の配転内示から本件解雇に至る過程における被申請人の組合に対する干渉等を総合して考慮すれば、本件出張命令は申請人の活発な組合活動による大阪工場支部一般組合員に対する影響力を封じようとする意図のもとに発令されたものと認めるのが相当である。
 なお、被申請人は、当初の配転内示が組合活動に支障を来すとの申請人の拒否理由をも充分考慮のうえ、長期出張に切り替えた旨主張するが、疎明によれば、A課長は六カ月経過後必ず申請人を大阪へ帰任させることの確約はできない旨明言し、むしろ出張期間の更新もありうる旨をほのめかしていたことが認められるから、右主張はそのまま首肯しうるものとはいえない。さらに、申請人が静岡へ出張期間中、組合活動上緊急の必要がある場合には、被申請人は組合からの申し入れにより即日申請人の帰阪を認めるとの妥協案を昭和五〇年一月中旬申請人に示したとの被申請人の主張に副うA課長の供述は、条件面での重点交渉を主張していたB中央書記長が、とくに申請人をさしおいて執筆し、大阪工場支部組合員に配布した二月二六日付支部情宣ニュース(「転勤に関する件」)に、その点に関する記載が全くないことに照しても到底採用することができない。
 むしろ、疎明によれば、本件出張は、従前の被申請人内における長期出張と較べても、出張先での職種が全く変ること、塗装関係技術者の出向、長期出張はこれまでにも屡々あったが、化成品技術者の長期出張は申請人の場合が始めてであること、化成品技術課から化成品営業課への配転はこれまでにも何回か行われたが、その配転先はすべて大阪営業課か、東京営業課のいずれかであって、営業所への単独配転や長期出張が行われたことはなかったことが認められ、これらの点に照すと本件出張命令は極めて異例と目すべきものであることが明らかである。
 結局、本件出張命令は労働組合法七条三号の支配介入に該当するものといわざるをえず、その余の点について断判するまでもなく、無効と解すべきものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 四 本件解雇の効力
 前記のとおり、本件出張命令が無効であるとすれば、申請人が右命令に従わないとの業務命令違反(就業規則六八条六号)を理由としてなされた本件解雇もまた法律上その効力を生ぜす、無効といわなければならない。