全 情 報

ID番号 03323
事件名 雇用関係存在確認請求事件
いわゆる事件名 民主音楽協会事件
争点
事案概要  懲戒解雇の意思表示につき、通常解雇の意思表示として解雇理由が相当か否かを考慮することができるとされた事例。
 配転命令拒否、不正行為を理由とする解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1979年12月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 219 
裁判結果 棄却
出典 労働判例335号53頁/労経速報1037号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換〕
 しかし、一般に懲戒解雇といわれるものも、使用者が労働者に対して行うところの雇傭契約を終了させる意思表示であるという点において、通常の解雇と何も異るところはなく、ただ多くの場合懲戒解雇には就業規則等で退職金債権の不発生ないし喪失の効果が付加されているので、右の効果が生じているか否かを問題とする場合は、これを判断するために就業規則等に定められた懲戒解雇の要件を充しているかどうかを判断する必要が生ずるが、そうでない場合は、仮に懲戒解雇としてされた解雇の意思表示であっても、使用者が解雇の理由として挙げた事実を前提として考えて当該解雇の意思表示が権利の濫用に当らない限りは、雇傭契約終了の効果を認めて差支えないものと解する。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 また、原告は、昭和四七年二月の配置転換に際し被告からその理由をきかなかったし、原告の職務が専門職であって三年程度の経験を経ないと一人前にならないのに対し、事業部は「ひま部」と呼ばれるような部門で経験も必要としない旨供述する。しかし、原告が配置転換の理由をきかなかったとの点は(証拠略)に照らして信用することができないし、一定年数の経験を経ないと仕事の上で一人前にならないというのはいかなる職務についてもいえることであり、しかも原告の供述する企画第二部職員の職務内容からしてこれが他の部門に異動することが予定されないような専門職であるとは考えられない。また、事業部が被告の公益事業の目的を直接遂行する部門でありかつ、被告が同部門の拡充を企図していたことは既に認定したとおりである。
 更に、原告は、昭和四七年二月一九日被告は同月一八日の配置転換を白紙撤回し、ただ表向きだけ所属を事業部としたのであり、同年一二月の「歌の大行進」終了後でも原告が同意した場合にのみ始めて他に配置転換できる旨の合意が原被告間に成立した旨供述する。しかし、昭和四七年二月一九日の話合いの結果は原告の説得方を被告から依頼されたAの提案によるものであり、しかも前記のとおり原告は採用時にいかなる配置転換にも異存がない旨誓約していることを考慮すれば、原告の同意がない限り将来配置転換しないという趣旨の被告にとって不利益な提案をAがすることは考えられないところであるし、将来事業部に配置転換できるという見通しもないままに長期間原告の所属を表向きだけ事業部としておくことも不自然であって、使用者として通常採りえない措置である。従って、原告の右供述部分は信用することができない。
 以上の事実によれば、本件配置転換は、原被告間の当初の雇傭契約で定められた原告の職務の範囲内における担当事務の変更に過ぎず、しかもその合理性に欠けるところはないということができる。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 そして、前述のとおり、本件配置転換は、実質上昭和四七年二月一八日の配置転換の延長とみることができるのであるから、本件配置転換もまた原告の信仰の問題とは無関係であるということができる。
 もっとも、(証拠略)によれば、原告が昭和四七年一一月一一日東京地方裁判所に学会を被告として学会のいう本尊に疑義があること等を理由に学会に寄附した供養金の返還を求める訴訟を提起し、学会は同月一五日原告を除名したこと、被告は学会から分離独立して設立された法人であって、被告の職員は全員が学会員であったことが認められるので、本件配置転換当時被告が原告に対し好感を抱いていなかったことは推測することができるが、前述のとおりもともと内容において合理的であり、かつ原告の信仰の問題とは無関係に予定されていた配置転換が右のような被告の原告に対する感情の変化の故に違法なものと化する理由はないというべきである。
 3 従って、原告は、本件配置転換を故なく拒否したものということができる。
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 原告は、昭和四七年三月末か四月初め頃、やはり被告の出入り業者であるBの経理担当者Cから、Bにおいて一五万円が必要なのでこれをDから借用してほしいと依頼されたため、Dに取次をし、同人から一五万円を預ってこれをCに交付したことがあるが、返済方法等についてはCとDの間で話合って決めてもらうこととし、それ以外は一切関与しなかったものである旨供述する。
 しかし、(証拠略)によれば、Dが原告の言動に不審を抱いて昭和四七年五月上旬被告の企画局長Eに対し原告に交付した一五万円の行方について尋ねたところ、Eから一五万円を交付したことを証明する領収証を持参するように言われたこと、そこでDが原告に領収証の交付を依頼したところ、原告は同月九日Cに領収証の作成を指示し、同人がその指示に基づき同人の義兄F名義で訴外会社宛に取引上の金銭領収のような形式で一割の税金分を上乗せした一六万六六六六円の領収証を作成し、原告がこれをDに交付したこと、更にその後原告は被告がこの領収証の真偽について関係者から事情聴取をしていることを知って、同月三〇日、Cに一五万円を交付してDに対する返還を指示し、同日CがこれをDに返還したことが認められるのであり、これらの事実に照らせば、原告の前記供述は信用することができない。