全 情 報

ID番号 03343
事件名 賞与請求事件
いわゆる事件名 ビクター計算機事件
争点
事案概要  解雇された労働者が給与規定の「賞与については毎年六月および一二月に(中略)過去六ケ月の従業員個々の勤務成績等に応じ、賞与支給の有無及び支給額を決定する」旨の条項に基づいて右期間の中途で解雇された場合も、その期間の割合に応じて賞与請求権を有するとしてその支払いを求めた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1978年3月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 2096 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ369号339頁/労経速報976号3頁/労働判例297号48頁
審級関係
評釈論文 手塚和彰・ジュリスト722号293頁
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被告会社においては経営状態が著しく劣悪で賞与の支給により事業の維持経営が危くなるなど特段の事由のないかぎり、毎年六月および一二月に従業員全員に対し賞与を支給する慣行になつていたものと解するのが相当であり、また右事実によれば、被告会社における賞与中に収益分配的、功労報償的性格を有する部分の存することはこれを否定しえないけれども、生活給的な性格を有する部分も決してすくなくなく、これら諸事情を勘案すると、被告会社における賞与はすくなくとも使用者たる被告会社が単に恩恵または任意に支給するものではなく、従業員がその対象期間内に提供した労務に対する賃金の一種として支払われて来たものと認めるのが相当である。しかして賞与の性格が右に見たようなものであるとすると、これを別異に解すべき就業規則等の規定あるいは確立した慣行の存在しないかぎり、従業員はその支給対象期間の全部を勤務しなくとも、またその支給日に従業員たる身分を失つていたとしても、原則として支給対象期間中勤務した期間の割合に応じて賞与の支給を受けるものと解するのが相当である。従つて被告会社における取扱のごとく、被告会社が一方的に賞与の支給日を指定し、支給日に在籍する者のみを支給対象者と定めて、その者にのみ賞与を支給することは、支給対象期間の全部または一部を勤務しかつ支給日に在籍しない従業員の権利を不当に奪うことになるものであるから、前記のごとく特別の社内規定または社内慣行の存しないかぎり許されないことになるところ、本件全証拠を検討するも被告会社には右取扱の根拠となる社内規定は存しない。従つて被告会社の右取扱が慣行と認められないかぎり、被告は原告に対し、その勤務成績および勤務期間に応じた賞与を支給すべき義務を有するものといわなければならないところ、本件全証拠を検討するも右取扱が社内慣行として確立していることを認めるにたる証拠はない。従つて支給日に在籍しないことを理由として昭和五一年度冬期賞与の支給対象期間のうち五ケ月を勤務した原告に右賞与を支給しないことは不当であり、許されないものである。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 また昭和五一年度冬季賞与支給対象期間六ケ月中原告が勤務した期間は前記のごとく五ケ月であるが、〈証拠〉によれば、被告会社においては支給日に在籍する従業員に対してはその者の勤務期間が支給対象期間の六ケ月に満たない場合でも、右勤務期間の支給対象期間中に占める割合に比例して賞与を支給していることが明らかであるから、特段の定めのない本件についても同様の方式をもつて支給割合を定めるのが相当である。