全 情 報

ID番号 03351
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 大和製罐事件
争点
事案概要  ブリキ製容器等の製造販売を目的とする会社の東京工場工務課動力掛に勤務し、ボイラー・コンプレッサー等の保守・整備・運転等の業務に従事していた者が仙台工場の製造課工務掛への配転を命ぜられたのに対して、内示の慣行に反する等として拒否したことを理由に諭旨解雇されたケースでその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1978年5月12日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ヨ) 748 
裁判結果 一部認容・却下(控訴)
出典 時報901号107頁/労働判例301号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 内示は一般的に使用者が労務指揮権の行使に先だち、配転、出向等に対する相手方従業員の意向打診の一面を有しており、それが発令手続において持つ比重は当該組織体における慣行などにより一概に定め難いであろうが、この段階では、未だ相手方従業員の労働契約上の地位に何らの変化ももたらされてはいないから、右従業員あるいはその上司などから配転等に応じ難いとする陳弁または意見具申がなされ、それが組織全体からみて客観的合理性を備えているものであれば、使用者において労務指揮権の行使を再度検案し、発令を自制、変更する可能性のあることは否定できない。これに反して、正式発令の段階に至れば通常もはや右のような手続上の可変性は皆無にひとしく、換言すれば、発令が取消し、撤回される可能性は極めて微少なものになると解されるから、事前内示の慣行が存するにもかかわらずこれを無視して敢えて発令し、その結果、相手方従業員において右手続の瑕疵、不備を訴えたときは、使用者としては、従業員にとって有利な前記可変性を否定するに足る緊急な事情、その他特段の事情が当時存在したことを主張、立証しなければならず、これがなされない限り、発令後になって従業員に対し、配転等に応ずるよう如何に説得を重ねたとしても、手続上の瑕疵そのものは治癒されることがないというべきである。
 (中略)
 前項(一)ないし(三)を通観すれば、本件配転は業務上の必要性、人選の相当性などにおいて客観的合理性を欠くものがあるというべきであり、むしろ、異例とも目すべき発令手続にうったえて、ことさら申請人に不利益を与えようとした意図の伏在を推知せしめるに足るといわざるをえない。してみれば、本件配転命令は、被申請人の労務指揮権の濫用としてその法的効果を生じないものと解するのが相当である。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 被申請人は、申請人の本件配転拒否は就業規則六四条四号に該当すると主張しており、同号が諭旨解雇または懲戒解雇事由の一つとして、「正当な理由なしに会社の指示命令に従わ」ない行為を挙げていることは申請人の明らかに争わないところである。しかし、叙上のように被申請人の本件配転命令はその法的効果を生じないものと解すべきであるから、申請人がそれに従わなかったからといって右規則にいう「会社の指示命令に従わ」なかったということはできず、したがって、本件配転命令に従わないことを理由とする本件解雇の意思表示は、解雇の理由がないのに解雇したものということができるから、解雇権の濫用としてその効力を生じないというべきである。