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ID番号 03383
事件名 賃金請求本訴控訴事件/不当利得返還請求反訴控訴事件
いわゆる事件名 白老町教員事件
争点
事案概要  教研集会への参加につき学校長の承認が得られないまま参加した教員に対して右参加による勤務場所離脱中の給与につき不当利得返還請求が行われた事例。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法2章
教育公務員特例法20条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 教員の職務範囲
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 1977年2月10日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行コ) 3 
裁判結果 棄却(確定)
出典 行裁例集28巻1・2合併号107頁/時報865号97頁
審級関係 一審/00979/札幌地/昭46. 5.10/昭和44年(行ウ)5号
評釈論文 横山茂晴・自治研究54巻11号148頁/兼子仁・教育判例百選<二版>〔別冊ジュリスト64号〕218頁/高田恒・地方公務員月報172号51頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 控訴人の給与、勤務時間その他の勤務条件は、市町村立学校職員給与負担法第一条、地教行法第四二条、地方公務員法第二四条第六項の規定により北海道条例で定めらるべきものというべきところ、「市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例」(昭和二七年北海道条例第七九号)第二条第二項は給与条例を準用し、同条例第四条は「給料は、正規の勤務時間による勤務に対する報酬である」と定め、同第一三条は「学校職員が勤務しないときは、その勤務しないことにつき教育委員会の承認のあつた場合を除く外、その勤務しない時間について、一時間につき、第一八条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額して給与を支給する。」と定めている。これによれば控訴人が「教育委員会の承認がなく」「勤務しない」場合において右勤務しない時間につき支給を受けた金員は、法律上の原因なくこれを不当に利得したものというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-教員の職務範囲〕
 教特法第一九条、第二〇条において、教育公務員は「絶えず研修と修養に努めるべき」こと、「研修を受ける機会が与えらるべき」ことを明示し、使用者の地位にある任命権者、本属長は、研修のための物的施設、研修実施方法についてこれに協力すべきことを定めるとともに、一定の条件のもとに勤務場所外における研修をも認め得る途を開いているのも右趣旨に副うための規定と解すべきである。しかし、教特法第一九条第一項は、「職責を遂行するため」に、「絶えず」、すなわち場所及び時間を超えた無限定のものとして「研究と修養」に努めることを義務づけているのであつて、「職務の遂行として」これを義務付けているのではないのみならず、これを給与支給のための勤務とみることは教育公務員にとつて極めて過酷を強いることになり、教育公務員の一般的な給与体系に照して到底是認し得ず、同条はその文言からして教育公務員についても前示理想像たる教職者としての人格能力の具有を期待する趣旨においてこれに必要不可欠な研究、修養への努力義務を、理念的、職業倫理的意味において規定したにとどまるものと解するほかはない。同法第一九条第二項及び第二〇条各項は、第一九条第一項における「研究及び修養」とは異なり、文言上は「研修」に関する規定である。しかして「研修」の語は、広義においては右「研究及び修養」と同義においてその種類、内容等を問わないものと解する余地ある反面、狭義においては、職務性の強い職員の勤務能率の発揮及び増進のために職員に対して施される教育訓練(人事院規則一〇-三第一条参照)と解する余地もあるのであるが、教特法が教員の職責の前記特殊性に基づき「研修」に関する規定を設けている趣旨を考慮すれば、右後者のごとき受容的な、与えられる義務的研修に限定してこれを解すべきではなく、教育に携わる者としての自覚に基づく自主的、自発的な研究修養を包摂するものといわなければならず、特にこれを第一九条第一項の「研究及び修養」と異る勤務性を付与した規定と解すべき理由はない。しかしまた教特法は、公務員たる身分にある教職者としての教員につき、その服務との関係においてこれを規定していることも明らかであつて(地方公務員法第五七条、第一条、教特法第一条参照。)、同法第二〇条第二項において、教員の日常的業務の中心的存在である授業の支障を配慮しながら、勤務時間内における勤務場所の離脱を考慮しているところからすれば、これが服務に関する具体的効力規定としても用いられていることも明白である。従つて教特法は、第一九条第二項で職業倫理的義務に対応する研修についても前記教育に関する理念に副うものとして任命権者にその助成措置を講じ、自らも積極的にその実施に努むべき一般的義務あるものとしてこれを定め、同法第二〇条では第一項において、右一般的義務に基づき具体的に実施される公的研修への参加の機会のみならず、教員が自主的、自発的になさんとする右研修についても可及的に機会を与うべきことを任命権者、本属長の一般的義務と定め、これにより勤務時間内においても、勤務場所においてなされる限り、服務監督権者である本属長の服務監督権行使が随時事実上可能であり、学校運営上の支障が生じないものとして、日常的業務すなわち勤務とはいえない研究修養についても、研修といえるものについては教員の自主性を尊重し、個別的な承認行為を要さぬものとして取扱うことを認めたものと解することができ、一方勤務時間内に勤務場所外で行われる自発的研修については、勤務場所を離れることにより本属長の服務上の監督権が事実上及ばないこととなる関係上、それが右監督権の例外的離脱によつて本来的職務として第一義的に行われるべき勤務場所での授業その他の日常的業務に及ぼす支障の有無、更には研修と称する右行為が右の離脱を相当とすべき前示「研修」に当るか否かを服務監督義務上服務監督権者においてまず判断せしめる必要があるため、同法第二〇条第二項においてこれを本属長の承認にかからしめた上、右勤務場所外での自発的研修をなすことをも許容したものと解するのが相当である。してみると、同法第二〇条第二項所定の要件のもとに行われる勤務場所外での研修も、その性質上後述する職務専念義務違反となるか否かの点は格別、これを勤務もしくは勤務に準ずるものとして把えることはできないというべきであり、本件教研集会への参加は仮にこれが研修であるとしても給与支給の対象たる勤務には当らず、従つて給与条例第一三条所定の「勤務しないとき」に該当するといわなければならない。