全 情 報

ID番号 03396
事件名 地位保全等仮処分異議事件
いわゆる事件名 昭和電極事件
争点
事案概要  会社からの帰途で起きた自転車事故につき被害者と称する者が弁護士をたてて会社へ善処方を求めてきたのを受けて、上司たる工場長が本人に善処方を指示したのに対して、無視するような態度に出たとして職務上の指示、命令違反等を理由に懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1977年5月12日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (モ) 578 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報864号121頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 懲戒処分は企業秩序違反に対する組織上の制裁であるところ、従業員の職務遂行に直接関係のない所為であっても、企業秩序に関連するものもあり、それが規制の対象となりうることは明らかであるから、本号にいう「職務上の指示、命令」には、被申請人会社のためにその社員が担当処理すべき本来の職務遂行行為についての職制、上司の指示、命令のほか、右職務遂行行為と密接な関連を有する指示、命令も含まれるものと解すべきである。
 そこで、本件についてこれをみるに、前記認定のように、申請人は、私用の自転車に乗って帰宅途中、Aが停車中の申請人の自転車の前輪に足を接触させて転倒したにかかわらず、同人から、申請人が起した交通事故により負傷したとしてその補償をするよう要求されていたものであるが、右接触事故は職場外でのいわば私生活上の所為であって、相手方の訴えによりこれを自主的に解決するか否かも、申請人が被申請人会社のために担当処理すべき本来の職務遂行行為でないことは明らかである。
 それでは、右は職務遂行行為と密接な関連を有する所為といえるであろうか。本来、労働者の私的生活は自由であって、これに対しては企業の規制も及ばないのが原則であるが、前述のように、会社の組織、業務等に直接関連のない私生活の範囲内の所為であっても、企業秩序に関連するかぎり、例外的にこれを規制の対象となしうるものであるから、右の私的生活上の所為が職務遂行行為と密接な関連を有するか否かも、企業秩序の維持、確保という観点から検討する必要がある。そこで、この点からみるに、相手方が被申請人会社に対し、申請人を説得、指示して事故を誠意をもって解決するよう善処して欲しい旨強く要望していたにもかかわず、申請人が誠意をもって相手方と話し合い、事故を自主的に解決することをしなかったとしても、後述するように、これが被申請人会社の社会的評価を特に低下毀損させるわけではなく、また他の従業員にその職務遂行上の能率を低下させる等の悪影響を与えることもなく、被申請人会社の企業の円滑な運営に支障をきたすおそれはないから、申請人が本件接触事故を自主的に解決するか否かということは、その本来の職務遂行行為と密接な関連を有する所為ともいえないというべきである。
 そうすると、申請人に対し右接触事故の自主的解決を要請していた被申請人会社の職制、上司の指示、命令は、本号にいう「職務上の指示、命令」には該当しないといわざるを得ない。
 (二) 申請人に対し事故の自主的解決を要請していた被申請人会社の職制、上司の指示、命令が、本号にいう「職務上の指示、命令」には該当しない以上、申請人がこれに従わなかったとしても、そのことを理由に申請人に本号の懲戒解雇事由ありとすることはできないというべきであるが、前記認定のように、申請人は第二回の賞罰委員会において、本件接触事故の内容についてかなり詳細に釈明するとともに、この事件については、藤原弁護士を代理人にたてて、自分の方で自主的にきちんと解決する旨明言し、同日同代理人を通じて相手方代理人に対し、本件事故については会社にではなく直接申請人の方に申出があればいつでも面談の用意がある旨申し出ているのであるから、申請人は最終的には被申請人会社の職制、上司の指示、命令に一応従ったというべく、この点からも、申請人の本件所為は本号の懲戒解雇事由には該当しないというべきである。