全 情 報

ID番号 03403
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 岸本洋服店事件
争点
事案概要  洋服類の製造販売を業とする会社の使用者が、従業員との長期の労使紛争、組合の各種闘争戦術による売上げの激減等のため経営意欲と自信を喪失し、企業を閉鎖・解散したうえで従業員を全員解雇した事件で、その効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1977年7月15日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ヨ) 1401 
裁判結果 却下(確定)
出典 労働民例集28巻4号237頁/時報882号112頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 以上(一)ないし(三)の事実によれば、被申請人代表者は、ダンデイ店、ヴアン店の新設に伴う設備投資により借入金利息の増大、一般的経済不況に伴う売行不振に加えて、度重なる労使紛争による組合との圧れき、並びに申請人ら組合員の各種闘争戦術による売上げの著しい減少等のため、経営再建の目途が立てられず、大手問屋商社から援助を中止され、金融機関から融資を拒否され、経営意欲と自信を喪失し、その結果、企業閉鎖、解散に至つたこと、及び清算手続は殆んど完了していることが明らかである。被申請人は、前記のとおり西三河地方では大手の洋服店と称されていたのであり、疎明資料によれば、本店の土地建物、代表者本人の自宅の土地建物はいずれも代表者の個人所有であり、同人がこれらを担保に融資を受け、被申請人に短期貸付するなどの方法をとれば、手形の不渡りは未然に防止し得た筈であり、被申請人代表者が、この措置をとらなかつたことは、同人が被申請人を経営する意欲と自信を失つたことを示すものと評されても仕方あるまい。
 従つて、本件企業閉鎖、解散は、真実の閉鎖、真実の解散であると認められる。
 もつとも、本店の土地、建物は、前記のとおり、代表者の個人所有として現存しているものであるから、代表者が、他日個人として企業を始める可能性がないとは言えないけれども、解散時に、代表者が右のような計画を具体的に立てていた旨の疎明は皆無であること、被申請人が実質上代表者の個人企業そのものである旨の疎明(いわゆる法人格の濫用ないし形骸化の疎明)の存しない本件においては、右可能性の存在することから、直ちに本件企業閉鎖、解散を目して偽装解散と即断することはできない。
 労使紛争の経緯については、先に詳細に説示したとおりであるが、就業時間中の服装闘争は、労務の提供に支障を及ぼすか、そのおそれが大であるときは、違法な組合活動と目すべきところ、前記申請人らの各服装闘争(腕章、ワッペン、ジーパン等)は、時間内組合活動としてなされたものであり、被申請人の業種からして、店頭における顧客に対し違和感を生ぜしめ、不快感を招き業務の円滑な遂行に支障を及ぼすか、ないしそのおそれが大であると考えられる。現にレオ店においては、同一建物内にある協同組合シヨツピングセンターからレオ全体の業務に支障を来たすとして中止申し入れを受けたことは前記のとおりであり、また、申請人らの昭和五一年度における個人別売上成績の著しい減退の一因は、右服装闘争にあると認められる。
 また、非協力闘争は、怠業の一種であると解されるが、使用者はこの闘争により売上げが激減するときは、いわゆる防衛のためのロツクアウトも許されるのであつて、この闘争により被申請人の受けた打撃は、深刻なものがあつたと認められる。
 一方、組合との約束を無視した店長に対する昭和五一年度の大幅賃上、刑事告訴、警察官導入、身元保証人に対する文書送付、家庭訪問等被申請人側にも、いたずらに組合を刺激し、反感を抱かせるような所為が多々あつ
 (中略)
 そうであるとすれば、企業廃止の自由を認める我が国の法制からすれば、それが法律上許されない理由はないから、本件解散は有効というべく、これを理由とする本件解雇は、疎明資料により認められる被申請人就業規則二三条一項五号にいう「事業縮小その他やむを得ない業務上の都合による解雇」として有効と認める外はないから、解雇事由不存在、解雇権の濫用、不当労働行為にあたるとする申請人らの主張は、いずれも採用できない。