全 情 報

ID番号 03407
事件名 勤勉手当請求事件
いわゆる事件名 建設省職員事件
争点
事案概要  勤務時間内にリボン等を着用した規律面でマイナス査定をうけた建設省の職員が成績率一〇〇分の六〇による勤勉手当が支給されるべきであったとして実際の支給額とそれとの差額を請求した事例。
参照法条 一般職の職員の給与等に関する法律19条の4
人事院規則9-40(期末手当及び勤勉手当)14条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 勤勉手当
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
裁判年月日 1977年7月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 222 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 行裁例集28巻6・7合併号680頁/時報860号154頁/訟務月報23巻7号1313頁
審級関係 控訴審/東京高/   .  ./昭和52年(行コ)53号
評釈論文 横山良治・地方公務員月報175号51頁/江橋崇・自治研究55巻8号127頁/山本吉人・判例評論228号40頁/野田進・ジュリスト677号116頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-勤勉手当〕
 これらの法令の定めによれば、国家公務員の勤勉手当は当該職員の勤務成績に応じて支給される業績報償的性格を有し、その支給額は、当該職員についての期間率及び各庁の長(又はその委任を受けた者、以下同じ)が定める成績率を当該職員の俸給等の額に乗ずることによつて算出されるのである。従つて、少くとも各庁の長により成績率の決定がなされない限り、勤勉手当の額は確定されず、それに相応する勤勉手当請求権は未だ発生するに由ないものといわなければならない。
 このことは、勤勉手当額の決定が各庁の長の裁量に委ねられていることを意味するのである。もとより、原告らが主張するように成績率の決定が恣意的になされてならないことは当然であるが、さりとて、そのことが直ちに成績率決定についての各庁の長の裁量を否定し、勤勉手当請求権の存在を根拠づけることにつながるものではない。すなわち、成績率の決定とその前提となる勤務成績の判定は、単純に機械的尺度をもつてなし得るものではなく、職員の日常の勤務態度、勤務実績、公務への貢献度を総合的に評価することによつてのみなし得るのであるから、これを職員を監督し日頃その動静を把握し得る地位にある各庁の長の裁量に委ねることは、それにより評価の正確性を期待することができ、かつ勤勉手当の業績報償的性格を意味あらしめる点において合理性を有するものということができるのである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 原告らのした本件リボン等着用行為は、有形的行為としては職務時間前において瞬時に終了しているから、その後においてこれを着用したまま精神的、肉体的に全力を職務に集中させることがすべての場合において全く不可能であるとまでは断定し得ないであろう。しかしながら、前記(二)において認定したとおり、原告らの所属するA支部及び東北地方本部は全建労本部の指示に従い本件リボン闘争の実施を決定し、傘下組合員に周知された方針どおりリボン等着用の直前である一一月一二日昼休み職場大会において翌日予定されている違法な時間内食込み職場大会実施への意思固めをした後上司の取りはずしの職務命令を拒否する意図のもとにその実施へ向けてリボン闘争を決定し、原告らはこれに従い、前示のとおり予め当局からそのような行為をしないようにとの警告が伝達されているのにかかわらず、自らが要求事項を記載したリボン等の着用に及んだのであり、リボン等着用に至るまでのこのような経過と前記1に述べた本件リボン闘争の性格に鑑みれば、その着用状態が継続している間は、着用者としては常に組合活動を意識しつつ労務提供をすることとなるのであるから、着用行為の継続は職務に対する注意力の集中度を減殺する蓋然性を高からしめるものといわざるをえないのである。従つて、本件リボン闘争が職務遂行と完全に両立し、これに全く影響を及ぼすおそれのない行為であつたとはいい得ないものといわなければならない。
 しかして、本件リボン等の着用は、国家公務員としての労務提供に直接かかわりのない行為であり、またそれが組合活動である以上本来勤務時間外に行うべき性質のものであることはいうまでもないし、原告らがリボン等に掲げた要求事項自体は不当なものでないにしても、本件当時において、勤務時間中に組合活動としてかかる要求行為をリボン闘争という形で実施しなければならない緊急性、必要性を認めるに足る証拠はない。原告らは、国家公務員法が争議行為を禁止しているのは違法であり、違憲な法律により争議権の行使が抑制されかつ人事院勧告制度もその代償機能を十分にはたしていない以上、経済的地位向上のため勤務時間中であつても本件リボン闘争のような集団的示威行為は必要であると主張するが、しかし非現業国家公務員についての争議行為禁止は違憲とはいえず(最判昭和四八年四月二五日)、また人事院勧告制度が代償機能を十分発揮していないかどうかは軽々に判断し得ないところであり、仮にその点において不十分なところがあつたとしても、前記要求事項の実現について勤務時間内の集団的示威行為にまで出なければならない程の緊急性、必要性は見出し得ないのである。
3 更に本件リボン闘争を職務専念義務とは別個の観点から眺めると、前記(一)認定のように 全建労が建設省職員組合所属職員を含め全建労への未加入者をも組織できる戦術として一一月一二日の本件リボン闘争及び一三日の一〇分間時間内食込み職場大会を計画したのに、前記(二)に認定したごとく、本件リボン闘争参加者として当局が認めた員数は比較的少く、なお当局が現認しなかつた参加者もある程度あつたろうことを考えても、全建労未加入者はもとより同労組員の中ですら本件リボン闘争不参加者が少なくなかつたものと推認されるのであり、このことは、全建労のかかる闘争方針が国土地理院及び東北地方建設局所属職員の多くの同調、共感を得るに至らなかつたものと認めるほかない。このように勤務時間内におけるリボン等の着用につき意見を異にする職員が混在する職場においてリボン闘争が行なわれれば、これに同調し或は共感を持ち得ない職員の中には不快感、反発感をいだく者が出て、その結果職務遂行の場である職場全体に違和感が生ずるのは否定し得ないところである。そして、職場にかかる雰囲気を生ぜしめる行為は、秩序を乱し職員全体の職務遂行に影響を及ぼすおそれのある行為といわざるを得ないのである。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-勤勉手当〕
 以上の事情を総合すれば、原告らの本件リボン闘争参加を規律評価の主眼とした結果、国土地理院長が別紙一の1ないし3の原告につき100分の五七、同4ないし12の原告につき100分の五八、同13の原告につき100分の五九とその成績率を決定し、また、東北地方建設局管内の工事事務所長が別紙一の14ないし23の原告につき100分の五九とその成績率の決定をし、もつて成績良好な職員との間に勤勉手当の支給額において本訴請求額程度の差をつけたことは合理的理由を首肯し得るものというべきであり、裁量権の逸脱を認めることはできない。
 原告らは、建設省が全建労に対し正当な組合活動を抑圧しこれに干渉を加え、所属組合員に不利益取扱いをくり返しており、本件における成績率決定もこのような全建労敵視政策のあらわれであると主張し、種々立証を試みるが、既に述べたように、本件リボン闘争に対する原告らの所属長による成績率決定につき裁量権逸脱が認められない以上原告らの主張するような事実はその存否いかんにかかわらず右成績率決定を違法ならしめるものではない。