全 情 報

ID番号 03415
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 大隈鉄工所事件
争点
事案概要  残業時間中に居眠りをして作業機械を損傷せしめた従業員に対する出勤停止処分が有効とされた事例。
 右出勤停止処分の取消を要求したことを理由とする解雇が無効とされた事例。
 希望退職応募者が目標数に達しないためになされた指名解雇につき、緊急やむをえない必要性に基づくものとはいえないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1977年10月7日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ヨ) 114 
裁判結果 認容
出典 労働判例292号59頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件居眠り事故は、夜勤明けの残業時間中に発生したものであり、会社側にも不測の事態発生防止のため夜勤者の勤務状況を不断に監視、監督する体制に不十分な点が存したことは否定できないところであり、本件プレナーの損傷それ自体を取り出して考えると、かつて同程度の損傷事故もあったのであり、また操作ミスによる人身事故、物損事故等は相当数その事例が存するが、物損事故については懲戒処分の例は一件も存しないのである。これらの点からすると、本件出勤停止処分は、重きに失すると考えられなくもない。
 しかしながら、先に認定したとおり、申請人は再三に亘り夜勤中居眠りないしこれに起因する事故を起こし、一度は始末書を提出し正規のものとは言えなくとも、事実上の譴責処分に付されていたこと、本件事故につき、申請人は即時に上司に報告すべきであるのに、これをなさず、上司の追及により始めて居眠り事故であることを報告するに至ったこと(右報告義務懈怠の点は、職場規律保持の面から会社としては黙過できない点であろう)、加えて、本件プレナーは米国製で高価なものであり、その損傷による損害も軽視できないこと、以上の諸点からすると、本件事故は、重大な過失ないし業務上の怠慢によるものとして、就業規則一四-三(8)(9)に、居眠りの点は一四-三(12)にそれぞれ該当し、従って一四-三(14)にも該当するから、一四-四(14)にも該当することとなり、右一四-一ないし四を適用してなされた本件出勤停止処分は、相当な事由に基づくものとして有効と解される。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 以上認定した事実によれば、三八〇名の人員縮少計画に対し、希望退職募集期間の二月末までの応募者は三〇七名にとどまり、三月一日付勧奨退職による勇退者四名を含めても、目標には六九名が不足であったこと、この時点において、会社は三か年計画を再計算したが、その結果依然として右不足分の人員縮少の必要性を認め、これを指名解雇の方法により達成することを決定し、三月三日の経協において、その旨組合に申入れたこと、組合は、希望退職の再募集(以下「二次募集」という)をなすべきであるとして、同日と翌四日の経協において強硬に反対し、三月九日の臨時大会において指名解雇の白紙撤回を求めてスト権の委譲を求めたが、執行部案が否決され、三月一二日の臨時大会において会社提案を受託する旨が決議され、三月一五日の経協における協議を経て三月一六日付を以って、六九名の指名解雇が発令されたことが明らかである。
 そして、会社のした再計算については合理性が認められ、また会社が希望退職募集期間中に若干の慰留を行ったことは前記のとおりであるが、右慰留には、合理的必要性が認められるから、右慰留の事実は六九名の人員縮少の必要性に消長を及ぼすものとは言えない。
 してみると、六九名の人員縮少の必要性は疎明されているというべきである。
 (中略)
 しかしながら、手続上の瑕疵のないことから、直ちに実体上も六九名の指名解雇の必要性が当然に認められるという関係にないことは多言を要しない。
 問題は、労使の協議を通じ、指名解雇の必要性が客観的に明らかにされていると認められるか否かにある。
 そこで、この点を仔細に見るに、当裁判所は、結論として、会社は、二次募集をなす等の方法により六九名の人員縮少をなす最後の努力をなし、然る後に指名解雇の方法をとるかどうかを決定すべきであり、この努力をなさず六九名の指名解雇を直ちになしたことについてはその必要性の疎明が不十分であると考える。
 以下にその理由を詳述する。
 整理解雇が、労働者の責に帰すべき事由ではなく、もっぱら会社側の都合に基づきなされるものであること、及び我が国企業の実状は終身雇用制が通常とされていることに照らすと、整理解雇が被解雇者に与える打撃は誠に深刻なものがあるから、整理解雇が有効と認められるためには、解雇基準の合理性、その人選の妥当性と並んで、整理解雇の必要性を具備することを要し、右必要性は、人員縮少の必要性を前提とし、人員縮少のための万全の努力をしたが、それが奏功しないという時に始めて認められると解するのが相当である。
 (中略)
 本件予備的解雇は、協議約款の存する労使間における整理解雇の一環としてなされたものであるから、その有効要件は、実体上は、解雇の必要性、整理基準該当の妥当性、手続上は労使の協議の履践であるが、前記のとおり、本件予備的解雇の必要性の疎明は十分とは言えず、却って(証拠略)によれば、申請人の成績は解雇基準にいう直近の成績資料はないが、会社主張の一次解雇以前の昭和四六年四月から同年九月まで、昭和四六年一〇月から昭和四七年三月まで、昭和四七年四月から同年九月までの成績はD又はEでいわゆる低成績者に当ることが認められるから、本件予備的解雇は他の指名解雇と同じく低成績者一掃の意図の下になされたものであることは明らかであり、その余の点につき判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効というべきである(付言すれば一次解雇に至る経緯に徴すると、申請人は、本件出勤停止処分の取消要求を撤回しないことを理由に、昭和四八年一月二二日以降就労を拒否され、同年二月五日付で一次解雇され、本件仮処分事件により会社と係争中の昭和五一年三月一九日に突然会社から本件予備的解雇の通告を受けたのであって、事前に会社ないし組合から人員縮少の必要性等の説明を受けていないことはもとより、解雇基準にいう直近の成績査定資料もなく、会社組合間の協議においても、組合は、申請人が一次解雇により除籍され組合員でなくなっていることを理由に協議の対象とすることを拒否しているのである。このような立場にある申請人を、解雇基準該当者としてどうしても予備的解雇しなければならない緊急の必要性が存するであろうか。これらの点からすると、本件予備的解雇は、前記低成績者の一掃という意図に加えて、一次解雇の効力を貫徹せんとの意図の下になされたものと推認する余地も十分ある)。