全 情 報

ID番号 03421
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 青森営林局長事件
争点
事案概要  国有林野事業に従事する職員が雇用制度改善、賃上げ等を目的として職場放棄を手段とする争議行為を行うことを企画・指導したとして全林野地方本部役員らが停職処分に付された事件につきその効力が争われた事例。
参照法条 公共企業体等労働関係法17条
国家公務員法96条1項
国家公務員法98条1項
国家公務員法99条
国家公務員法101条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1977年12月13日
裁判所名 青森地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 13 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報885号163頁/訟務月報23巻13号2246頁
審級関係 上告審/06089/最高一小/昭62. 3.19/昭和59年(行ツ)14号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 1 原告らの本件争議行為は公労法一七条一項に触れるものである。
 ところで右条項は、公共企業体等の職員の争議行為を禁止することによって、国民生活一般の利益の保護を図ろうとするものであるが、およそ国の事業体の場合、右のような国民生活一般の利益の保護と、使用者が個々の職員に対する指揮監督等個別的な労働関係を通して職場秩序を維持し業務の正常な運営を確保することとは全く相互に無関係ではなく、不可分の関連性をもつものであるから、前記条項により禁止された争議行為に加功することにより若しくはそれに際して、上司の指揮命令に違反する等法令上及び職務上の義務に違反して職場秩序をみだした職員に対しては、使用者は国公法八二条に基づく懲戒権を取得するものというべきである。
 しかし右のように使用者が懲戒権を取得するといつても、それは一般的形式的な立場からする法の適用の結果に過ぎず、当該の具体的な懲戒処分が正当な権利の行使として適法であるかどうかは、更に進んで当該具体的個別的な実質関係を考慮して決定しなければならない。
 そして、右の場合、懲戒事由に該当する行為をした職員に対し、懲戒権者が懲戒権を発動行使すべきかどうか、またどの種類の懲戒処分を課すべきかは、その全くの自由裁量に委ねられているわけではなく、秩序違反の態様、程度、その目的、動機のほか、当該職員の地位、懲戒処分によつて受ける不利益の程度等の諸事情を綜合考慮したうえ、職場秩序を維持し業務の正常な運営を確保するため客観的にみて必要最小限の範囲に止められるべきものであるが、とくに争議行為に起因する場合には、次に述べるように、勤労者の労働基本権を保障した憲法の根本精神と、それにもかかわらず公共企業体等職員の争議行為を禁止した公労法一七条の規定の趣旨の検討を通して、果して当該懲戒処分が合理的妥当性をもつものであるかどうかを決しなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 以上に検討したところを総合すると、原告Xら一一名を除くその余の原告ら作業員が行なつた本件争議行為は、形式的には争議行為禁止法規に触れるとはいえ、当該法規が争議行為を禁止することによつて保護しようとする国民全体の利益に対しいささかなりとも脅威を与えたと認めることはできないうえ、その目的が作業員の地位の安定及び労働条件改善という労働者としてはきわめて当然かつ切実な要求であつたものであり、国家公務員を含めて労働者に労働基本権を保障した憲法二八条の趣旨及び公労法一七条一項が争議行為を制限禁止した理由ないし意義に照らし、本件争議行為に対して被告むつ署長、同中里署長及び同脇野沢署長がした各懲戒処分は、成程そのうちには、戒告という最も軽い処分を受けたに過ぎない者もいるが、しかしその点を考慮に入れても、なおそのような懲戒処分を発動行使したこと自体が不必要に苛酷に過ぎ、懲戒処分権の行使について同被告らに委ねられた合理的な裁量の範囲を著しく逸脱してなされた違法のものと評価せざるをえない。
 また、原告Xら一一名の職員の行為は、本件争議行為の計画及び指導であり、公労法一七条一項で禁止された行為に該当するが、本件争議行為の目的、態様及び影響について前に認定した事実及びこれに対する評価にかんがみれば、本件争議行為を実行したその余の原告の場合と同様、これに対して懲戒処分を課すること自体公労法一七条一項による禁止の趣旨を逸脱したものであり、被告局長に委ねられた懲戒処分権行使についての合理的な裁量の範囲を外れたものといわざるをえない。