全 情 報

ID番号 03428
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  キリスト教系の大学の神学科で副手をしていた女性の夫が同校の卒業生が構成している会の総会で院長を公然悔辱するビラを配布したこと等を理由で妻を解雇したケースでその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1976年1月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ヨ) 2290 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報807号96頁
審級関係 控訴審/00626/東京高/昭53. 2.20/昭和51年(ネ)280号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 本件解雇がなされるにいたった経過について見ると、申請人の夫であり、かつて神学科に学生として在籍したことのあるAは、昭和四八年三月一三日に開催された神学科卒業生等を構成員とする共励会の臨時総会の席上において、被申請人の院長Bの氏名をもじった「C」を名のり「閉ざされた世界に光を与えよ」と題し、神学科の存在並びにB院長ら被申請人の理事者を批判したうえ神学科の解体を呼びかけ、果は「Bのごとき馬鹿、まぬけ男につき合い、われわれの水準を低めてはならない」「B一派実力粉砕=神学科解体万才」等の内容を印刷した「○○主義者同盟(△△派)」名義のビラを参会者に配布したが、同年三月三〇日の夜にいたり当時の被申請人の前記大学の文学部長であったDから神学科主任事務取扱助教授のEに対し電話をもって、右のAの言動についてB院長が激怒しているし、学園紛争のときもいろいろ暴れたことのある太郎の妻である申請人を神学科で雇っておくことはけしからんというのがB院長の大変強い意向である、文学部副手の任期は二年という内規があるからそれを理由にして、また急なことでもあるし賃金一か月分を払って申請人をやめさせるよう措置されたい旨の連絡があったが、申請人に対する解雇理由が右のようにB院長の太郎に対する私憤であること等のためE教授においてD文学部長の申出に従うことを拒否したところ、翌三一日にD文学部長から申請人に対する私信の形式をもって本件解雇の意思表示が発信されるにいたったこと、そして、それまでの間において神学科において副手の任期が問題化したことはもちろん、副手の過員による整理が問題とされたこともなく、その後においても神学科教員は申請人の雇用継続を強く文学部長等に対して要望していたこと、以上の事実が認められる。右事実によれば、被申請人が申請人を解雇するにいたった真の理由は、Aの前記言動及び申請人がその妻であったということに尽き、神学科の縮小に伴う過員整理は申請人を解雇するための単なる口実にすぎないことが認められ(る)。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上の認定事実によれば、申請人に対する本件解雇はその合理的根拠を欠くものというべく、従って解雇権の濫用として無効というべきである。