全 情 報

ID番号 03453
事件名 給料等仮処分申請事件
いわゆる事件名 浅古運輸事件
争点
事案概要  倒産会社の買収会社が倒産会社の未払賃金債務について引受けたものとして倒産会社の従業員が右買収会社およびその代表取締役に対して賃金の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法3章
民法3編1章4節
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 営業の廃止と賃金請求権
裁判年月日 1976年9月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 2341 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報844号98頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-営業の廃止と賃金請求権〕
 AはBの買収が仮契約とはいえ、すでに同会社を手中にしたつもりで、早急に同会社の業務を始めるべく、そのために右協定を結んだものと見ることができる。確かに、同会社の株式はA個人が取得することになっていたけれども、右事実関係からも明らかなとおり、役員等人的にも、資金、施設等物的にも同被申請会社が全面的に乗り出してきたのであって、右協定書のとおり、右協定は同被申請会社を一方当事者とするものと見るほかない。そこで、同被申請会社代表者としてのAの記名押印が、Bの代理としてなしたとの主張について考えるのに、Bがなすべきならば、代理すべく委任したとするCの記名押印を直接求め得たと考えられるし、同人が途中退席したとしても、同人に対する支配関係から残らせることさえ可能であったと見られる。のみならず、代理行為の趣旨を明らかにして、代理人として記名捺印をすることは至極たやすいことであるにも拘らず、それをしていない。そして、右の交渉から協定に至る事実を通じて、Aあるいは同被申請会社においてBを代理する趣旨の言動を全く窺うことはできない。むしろ、Aとしては、買収が近い将来実現するものと思い込み、その暁には、Bと同被申請会社とを敢えて区別することなく、一体となるべきものと考えたうえでの行動と推認することができる位である。ただ、後に至って右の買収が不成功に終ったため、遡って右各協定についても、同被申請会社の責を免れんがため付会した理由に過ぎないということができる。従って、同被申請会社の右主張は採用することができない。
 同被申請会社は、利益金一八五万円余に過ぎないので、Bの債務を引受けたり、あるいは保証することはあり得ないと主張する。確かに、《証拠略》にはその主張程度の利益しかない旨の記載を看取できるけれども、Bと何ら関連のない場合には、なるほどその主張のように考えるのがもっとも自然であり、合理的であるといえよう。しかし、すでに説示のとおりの経緯があって、買収が軌道に乗っていると思われた段階であり、それが実現した場合、東京都に対する金千数百万円の債権もあって、現にBのために金九〇〇万円以上を支出していることを考えると、単に同被申請会社の利益だけから、右捺印の効果を否定することは困難である。
 そうだとすれば、被申請会社の協定によってなしたのは、協定事項について債務負担の意思表示であるといわなければならず、これは債務引受というべきである。