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ID番号 03465
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 陸上自衛隊事件
争点
事案概要  陸上自衛隊員が後退してきたトラックにひかれて死亡した事件で国の安全配慮義務違反が問われた事例。
参照法条 民法415条
民法1条2項
国家公務員法93条
国家公務員法94条
国家公務員法95条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1975年2月25日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (オ) 383 
裁判結果 破棄・差戻
出典 民集29巻2号143頁/時報767号11頁/裁判所時報660号2頁/訟務月報21巻4号805頁/裁判集民114号193頁
審級関係 控訴審/03555/東京高/昭48. 1.31/昭和46年(ネ)2901号
評釈論文 SHE・時の法令894号53頁/宇都宮純一・法学41巻2号102頁/奥田昌道・昭和50年度重要判例解説〔ジュリスト615号〕57頁/岡村親宜・労働法学研究会報1086号1頁/乙部哲郎・行政判例百選【1】〔別冊ジュリスト61号〕60頁/慶谷淑夫・法律のひろば34巻7号37頁/後藤清・労働判例221号4頁/斎藤浩・別冊判タ2号272頁/柴田保幸・法曹時報28巻4号635頁/森島昭夫・判例評論200号30頁/西村健一郎・労働判例222号4頁/西村健一郎・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕32頁/川崎武夫・法律時報47巻9号164頁/大内俊身・法律のひろば28巻6号37頁/中井美雄・法律時報53巻6号142頁/東條武治・民商法雑誌74巻1号73頁/林弘子・季刊労働法96号71頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 思うに、国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法一〇一条一項前段、自衛隊法六〇条一項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出動時(同法七八条以下)又は災害派遣時(同法八三条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法九三条ないし九五条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法二七条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。