全 情 報

ID番号 03477
事件名 移転料等返還請求事件
いわゆる事件名 海外技術協力事業団事件
争点
事案概要  海外技術協力事業団が、海外派遣要因として採用した調査員の不適格を理由に解職し、派遣契約を前提として支給していた支度料および移転料を不当利得として返還を求めた事例。
参照法条 民法130条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 仕事の不賦与と賃金
裁判年月日 1975年4月15日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 192 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報786号75頁/タイムズ329号275頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
 被告の派遣遅延の事情、解職にいたる経緯等は既に説示したとおりであるが、これらの事実によれば、被告が訴外西村とともになした派遣遅延についての協力隊事務局に対する要求及び抗議行動の面のみをとりあげてみると、とりわけ詫び状の要求ビラの配付、ハンガーストライキの実行等につきいささか妥当を欠き行きすぎと考えられる点がないでもなく、従って事業団がかような刺戟的な行為を敢えてする被告を外交に関し微妙な影響を与えかねない国際親善を目的とする協力隊調整員として派遣することに危惧の念をいだくにいたり被告を調整員から解職して遂に派遣契約締結の運びに至らなかったこともあながち無理からぬところとして是認できないわけではなく、国際外交の特殊性を考えると被派遣者の性格についていさゝかでも疑問を抱き乍らなお且つその者と派遣契約を締結して海外に派遣する義務が原告にあるとすることはこれを容認することはできない。
 しかしながら、翻って考えてみるに、被告らが右のような行動をとらざるを得なかったことについてはむしろ事業団側に責められるべき落度があったといわざるを得ないのである。
 (中略)
 派遣契約の不存在を理由としての本件仕度料ならびに移転料の不当利得返還請求は信義誠実の原則に悖るものとしてこれを容認し難い。けだし事業団は前記のように協力隊員の募集に当り隊員は三ケ月の訓練後一〇日程度の後に必ず海外に派遣されるであろうとの予期を抱かせても当然ともいえるパンフレットを発行し、被告を協力隊員として応募せしめこれに三ケ月間の訓練を施した上調整員として採用したが必ずしも正確で万全であったとはいえない見通しのため被派遣国との交渉に手間取って被告の前記抗議行動を誘発し遂に被告を調整員から解職するのやむなきに至ったため派遣契約不締結の結果を招来したものであって、この契約不締結は事業団によってその締結を妨げられたのにも等しいものとして、民法第一三〇条の趣旨を類推適用し被告主張の原告の被告を海外に派遣する義務と被告の役務提供義務が相互に存在する双務契約が成立するに至らなかったとしても原告としては右契約の不存在を主張し本件の不当利得返還を請求し得ないものであると解するのが信義の原則に合致する所以であると思料されるからである。また被告としては海外に派遣されて提供すべき役務の提供が派遣契約不締結によって不可能となったのであるがその不可能は前記のように原告側に帰すべき事由によるものであるから民法五三六条第二項の危険負担の原則に則りその給付がなくても反対給付の請求権は失われないから被告の受領した支度料移転料は被告にとつて不当利得となるものではない。