全 情 報

ID番号 03546
事件名 退職処分取消請求事件
いわゆる事件名 宮崎県職員事件
争点
事案概要  地方公務員の退職願の撤回につき、すでに一週間以上経過して後任も補充されていること等から信義則に反し許されないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1974年12月6日
裁判所名 宮崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 4 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 行裁例集25巻12号1527頁/タイムズ322号291頁
審級関係 控訴審/福岡高宮崎支/昭51. 3.10/昭和50年(行コ)1号
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 四、また、退職願を撤回することは、退職願提出者に対し依願免職の辞令が送達されるまでは時期的には原則として自由であると解せられるけれども、無制限に撤回が認められるとすれば場合により信義に反する退職願の撤回によつて、退職願の提出を前提として進められた爾後の手続がすべて徒労に帰し、個人の恣意により行政秩序が犠牲に供される結果となるので、免職辞令交付前においても、退職願を撤回することが信義に反すると認められる特段の事情がある場合にはその撤回は許されないものと解するのが相当である。
 そこで本件についてみるに、前示のとおり、原告は自らの行為によつてしかも実習航海中に喧嘩騒動を惹起し、結果的には自分が受傷するという事態にはなつたが、そうなるについては原告の日頃の言動、性癖、勤務態度、人間関係が大きな原因をなしていたのであり、これらの点や、事件後の原告の言動により生じた船内の不穏な空気をも勘案して事態収拾のため、Aらにより退職願を提出するようにとの説得がなされたもので、右の事情は原告も十分認識していた筈で、それゆえにこそ原告も右の説得に応じ退職願を提出して下船したのであり、被告側でも原告らの退職を前提とする諸手続をとつたのである。そして右諸手続がとられることは原告の予測しうることであつた。しかも、被告においては原告の行状を分限免職処分に該当するものと考えていたのである。
 こうした経過や状況に徴すると後任者乗船後になつてからよもや原告より退職願撤回の意思表示がなされることはありえまいと考えるのが、ことが船員に関することでもあり、常識に合致するところ、原告は、退職願提出から一週間以上経ち、同船が原告の後任を補充して出港した後の同月二四日になつて突然被告に対し撤回の意思表示をなしたものであり、かかる時期における撤回が許容されるとすれば、前記退職願の提出を前提として進められた被告の爾後の手続がすべて徒労に帰し、原告の恣意により行政秩序が犠牲に供される結果となるのみならず、第三者たるBが不測の損害を蒙ることを肯認することになるのであつて、かかる結論はとうてい是認できないところである。
 従つて、仮に退職願の撤回が本件のごとき方法により有効になされ得るとしても、原告の本件退職願の撤回は、右に述べた理由により、結局、信義に反し許されないものといわなければならない。
 そうすると、本件退職願の撤回はその効力を認めることができないので、原告の主張は理由がなく、被告のした本件依願免職処分は適法であるということになる。