全 情 報

ID番号 03565
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 旭電化工業事件
争点
事案概要  全国に営業所をもつ会社のセールスマンに対する東京から大阪への転勤命令につき、妻や親にかかわる家庭事情は右転勤命令を拒否する理由にはなりえないとして、命令拒否を理由とする懲戒解雇を有効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1973年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 15128 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報720号103頁
審級関係
評釈論文 島田正雄・労働法律旬報840号63頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 (二) 原告が本件転勤命令に従わなかった理由についてさらに検討を加える。
 (1) 原告がその妻Aが妊娠中であることをその理由の一つにあげて本件転勤命令に従わなかったことは右にみたとおりであるが、《証拠略》をあわせると、右Aは、妊娠による分娩が昭和四二年六月に予定されていたが、妊婦としての経過が順調であったので、転勤の予定される同年四月当時において妊娠による健康状態につき特に懸念されるようなものがなかったことを認めることができるから、右Aの妊娠およびその臨月が同年六月であることは夫である原告の本件転勤を妨げるに足りる事由にはあたらないというべきである。
 (2) すでに認定したとおり、原告は、さらにその理由の一つとして、原告およびその妻Aの双方の親が挙って原告の転勤に反対するからといって、本件転勤命令に従わなかったのであるが、《証拠略》をあわせると、原告には母B(明治三六年生)がいるが、同人は夫亡きあと昭和二三年いらい長子C(昭和五年生)から末子D(昭和二〇年生)にいたる男五人、女四人の子女を育てあげ、本件当時においては右C以下原告の兄三人、妹二人および弟一人の六人がそれぞれ職に就いて収入を得ながら母と同居していたので、原告からの援助ないし扶養を必要とするような境遇にあったわけではないが、原告は、その兄および弟妹らが母と同居して物心両面に亘る世話をしていることから、ひとしく子の親に対するつとめをはたそうとの一族の図らいに従って、母あてに毎月四〇〇〇円を仕送っていたこと、原告の妻Aは、いわゆる一人っ子であるが、当時六八歳と六七歳の父と母が健在で、戦前から小規模経営ながら職人を雇い入れて建築の板金工事の下請を家業としていたので、特に経済的援助をしなければならない必要はなかったのであるが、原告との共稼ぎで平均月収(期末手当を除く。)六万二〇〇〇円の手取額のうち自己の月収が原告のそれよりも約二〇〇〇円多い状態にありながらなお原告がその母Bあてに月額四〇〇〇円の仕送りをしていることに倣って、月々四〇〇〇円を親許に仕送っていたことが認められるけれども、このような事情のもとにおいては、原告の母BまたはAの両親のいわゆる反対がはたして被告の出方など委細構わぬものであったのかどうか、はたいかなる成算あっての反対なのかについては窺い知るに足りる証拠もなく、原告がその親たちに反対されたからといって本件転勤命令に応じないことはとうてい首肯しがたいものといわなければならない。
 (中略)
 Aは、原告と結婚したのちにおいても、年老いた両親と一人っ子の絆にほだされて新居を近所に求め、原告の社宅入居のせっかくの機会をも見送り、両親の居宅から徒歩五分位の距離ではあるが、賃料および間取りなどの条件ではとうてい社宅に及ばない六畳ひと間の間借住居に甘んじていることが認められ、そのうえ将来とも長きにわたってその保険会社勤めを続けようとしていることは前記認定のとおりであり、世上配偶者の職業上の理由または同居の親族の監護・教育上の必要などによりよぎなく単身で転勤する事例がままあることでもあるから、原告は、本件転勤問題に対処するにあたって、さしあたり、巷間の事例に倣い妻Aにその勤続一二年に及ぶ保険会社勤務を従前どおり継続させることとし、みずからは単身で大阪の関西食品課へ転勤するほかない実情にあったということができる。まさに原告のいう生活の実態は、被告との雇用関係を維持するかぎり、右のように対処し選択することを原告に促すのではなかろうか。
 ともあれ、以上のような認定事情のもとにおいて、原告が夫婦共稼ぎをしていて妻が転勤できないからといって本件転勤命令に従わないことは相当でないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 (三) 右(一)および(二)(1)から(3)までに認定したところによれば、本件転勤命令をもって被告がその人事権を乱用してことさらに酷薄に原告を処遇したとみるのは当らない。原告の主張は採用しがたい。