全 情 報

ID番号 03568
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 名古屋放送事件
争点
事案概要  男子五五歳、女子三〇歳の定年制を定めた放送会社の就業規則は、右差別につき合理的な理由がなく公序良俗に反し無効とされた事例。
 就業規則等に基づかない業績向上祝金は一種の贈与の性質を有し、賃金には含まれないとされた事例。
 食券制度が賃金体系上厚生手当に該当し賃金に該るとされた事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法11条
労働基準法89条1項3号
民法90条
日本国憲法14条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別定年制
賃金(民事) / 賃金の範囲
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1973年4月27日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 1452 
昭和47年 (ワ) 2064 
昭和48年 (ワ) 136 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ298号327頁
審級関係 控訴審/00221/名古屋高/昭49. 9.30/昭和48年(ネ)227号
評釈論文 小西国友・ジュリスト577号151頁
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別定年制〕
 憲法一四条は、基本的人権として法のもとにおける平等を宣言し、性別を理由とする合理性のない差別待遇を禁止している。同条を受けた労基法四条もまた性別を理由とする賃金の差別を禁止し、同法三条は労働条件について国籍、信条または社会的身分を理由とする差別を禁止している。ところが、労基法は、賃金以外の労働条件については、性別を理由とする差別を禁止する規定を設けず、かえつて、同法一九条、六一条ないし六八条は女子労働者を保護するため、男子労働者と異なる労働条件を定めている。従つて労基法は、性別を理由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止の対象としていないと考えられる。
 ところで、本件のように就業規則による定年退職制は、退職に関する労働条件であることが明らかであり、本件女子定年制が男子の五五才に対し女子について三〇才と著しく低いものであり、かつ三〇才以上の女子であるということから当然に労働者としての適格性を失うとは即断できないから、もとよりそれは性別を理由とする差別待遇にほかならない。そして、性別による差別待遇が退職という労働契約終了の効果をきたすものであつてみれば、労務の提供によつて生活を維持している労働者の生存権、労働権をも侵害するものであるから、憲法一四条、二五条、二七条の精神にもとることは明らかである。従つて他にこの差別を合理的に理由づけるにたる特段の事情がない限り、著しく不合理な性別による差別待遇であり、民法九〇条による公序良俗違反として無効というべきである。
〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別定年制〕
 (三) 以上のとおりであるから、本件女子定年制に関する被告の主張はいずれも合理的理由がなく、他にこれを認めるにたる証拠はない。
 思うに、女子若年定年制に合理的理由ありと認められる場合とは、特定の業種または業務に必須の年令的制約が伴い、かつ非適格者に他業種または他業務への配転の可能性のない特殊の場合であろうが、本件においては被告の全立証によるも本件女子定年制がかかる場合にあたるとは認められない。
 従つて本件女子定年制は、女子従業員を男子従業員の五五才定年制と著しく不利益に差別するもので、公序良俗に反し無効といわなければならない。
〔賃金-賃金の範囲〕
 (二) 被告は、夏季および冬季の一時金(賞与)は、贈与の性格を有するもので賃金に含まれず、その支払請求権も個々の従業員に対する被告の個別的支給の意思表示によりはじめて生ずる旨主張する。しかし被告も自認するとおり、右賞与の支給は就業規則および給与規則に基づいてなされるものである以上、当然にそれは労働契約の内容となつたものというべきであり、賃金の一部に含まれることはいうまでもない。
 反面、業績向上祝金等の名目で支払われる金一封は、それが就業規則、給与規則ないし協定に基づくものでない以上は当然には労働契約の内容となるものと解することはできないから、一種の贈与の性質を有するものと解するほかなく、従つてその支払請求権も個々の従業員に対する被告の贈与の意思表示をまつて初めて生ずるものと解すべきである。
(中略)
 被告は、食券は勤務日数に応じ一ケ月一、〇〇〇円の割合で支給されるもので給与ではなく勤務しない者には支給されない旨主張するけれども、食券制度は被告の賃金体系上はいわゆる厚生手当に類し、基準内給与に含まれると解するのが相当であるところ、原告Xは被告の責に帰すべき事由により就労を妨げられているのであるから、特段の事情なき限りその提供(勤務)は一〇〇パーセントなされたものと解するほかはなく、食券制度が後述のとおり廃止された時点において、原告Xは被告に対し一ケ月一、〇〇〇円の割合による食券代金相当額の代償請求権を取得したものというべきである。