全 情 報

ID番号 03574
事件名 訓告処分無効確認ならびに損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 国鉄青函局事件
争点
事案概要  国鉄職員が勤務時間中に制服左胸に組合活動としてのリボンを着用したことにつき、職務専念義務に違反するとし、再三にわたる取りはずし命令に従わなかったことを理由とする訓告処分が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1973年5月29日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 167 
裁判結果 取消
出典 時報706号6頁/タイムズ295号146頁/労働民例集24巻3号257頁
審級関係 一審/03626/函館地/昭47. 5.19/昭和45年(ワ)302号
評釈論文 喜多祥旁・教育委員会月報275号42頁/橋詰洋三・判例評論180号34頁/三宅正男・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕242頁/山口浩一郎・労働法学研究会報1006号1頁/志賀幸弘・地方公務員月報121号56頁/深山喜一郎・昭48重判解説178頁/西谷敏・季刊労働法89号92頁/石橋主税・労働判例179号18頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕47巻3号120頁/島田信義・労働法律旬報880号19頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 1 職務専念義務違反について
 日本国有鉄道法第三二条第二項は、「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」と規定する。その趣旨は、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。そして、これが法律に特に明記されているのは、右の趣旨の職務専念義務が、国鉄職員としての基本的な義務であり、国鉄職員が右義務を適正に果すことによつて、はじめて、国鉄の目的である鉄道事業等の能率的な経営による公共の福祉の増進(日本国有鉄道法第一条参照)が可能となるからである。
 国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによつて当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反するものであり、ただ、その行為または活動が職務専念義務に違反しない特別の事情がある場合、すなわち、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中をなんら妨げるものでないと認められる特別の事情がある場合に限り、その行為または活動は違法の評価を免れることができる。そして、かかる特別の事情の存否は、その行為または活動の性質、態様等を総合して判断すべきものであるが、特別の事情があるとするためには、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないことが確定される必要があり、その行為または活動が職員の右活動力の集中を妨げるおそれが存するときは、特別の事情があるということはできない。このように、職員の行為または活動が職務専念義務に違反するかどうかは、それが職務の遂行と関係があるかどうか、その行為または活動が職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないものであるかどうかによつて決せられるものであり、その行為または活動によつて、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべきである。
 そこで、右の見地から、被控訴人らの本件リボンの着用が職務専念義務に反するものであるかどうかを検討する。
 引用にかかる原判決認定の事実(以下「認定事実」という。)によれば、本件リボンの着用は、昭和四五年春闘において、国労の要求である一万六,〇〇〇円の賃上げと一六万五,〇〇〇人の要員削減反対の実現を目指して、青函地本の指令に基き、国労組合員である被控訴人らが行なつたものであるが、原審における証人Aの証言、原審における被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5各本人尋問の結果によれば、被控訴人ら組合員は、本件リボンを着用することにより、国労の要求を明らかにし、これを支持する意思をあらためて自己確認するとともに、組合員の団結を固め、使用者に対する示威と国民一般に対する教宣活動とすることを目的としたものであることが認められる。右事実によれば、本件リボンの着用は、組合活動としてなされたものであり、被控訴人らの職務の遂行とまつたく無関係であることは明白であるから、本件リボンの着用によつて、職務に対する精神的、肉体的活動力の集中がなんら妨げられなかつたと認められない限り、被控訴人らが本件リボンを勤務時間中に着用したことは、職務専念義務に違反するものといわねばならない。
 被控訴人らは、本件リボンの着用は労働義務の履行ないし円満な労務提供の義務の履行に実質的、具体的な支障がなく、そのおそれもないと主張する。本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによつて、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて、原審における、被控訴人Y6本人尋問の結果によつて認められるとおり、勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。かえつて前記のような本件リボン着用の経緯、態様よりすれば、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。
 よつて、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 四 本件訓告処分の適否
 認定事実によれば、控訴人の訓告は、控訴人と国労との間に締結された懲戒の基準に関する協約の第一条に列挙された行為に該当する事由があつた場合で、その行為が日本国有鉄道法第三一条に定める懲戒を行なう程度にいたらないときになされるものであるところ、被控訴人らは、いずれも職務専念義務及び服装の定めに違反して本件リボンを着用し、かつ上司の再三の取りはずしの命令にも従わず本件リボンの着用を継続したものであるから、被控訴人らの右行為は、成立に争いのない乙第八号証の三によつて認められる前記懲戒の基準に関する協約第一条第一号の「日本国有鉄道に関する法規又は令達に違反した場合」及び第三号の「上司の命令に服従しない場合」に該当することは明白であり、被控訴人らの訓告処分は、いずれも適法である。
 被控訴人らは、本件訓告処分は、労働組合法第七条第一号に違反し無効であると主張するが、被控訴人らの本件リボンの着用が正当な組合活動に当らないことは前記のとおりであるから、これが正当な組合活動であることを前提とする被控訴人らの主張は、採用することができない。