全 情 報

ID番号 03591
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 川崎重工業事件
争点
事案概要  休憩時間中のアンケート調査を理由とする遣責処分につき、就業規則に「遣責は始末書を提出せしめて将来を戒める」旨の定めがある場合は、始末書提出義務が存在しないことの確認を求める利益があるとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等
裁判年月日 1973年10月24日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ネ) 358 
裁判結果 一部取消差戻・確定
出典 高裁民集26巻4号417頁/時報739号120頁/タイムズ307号217頁
審級関係 一審/01311/神戸地/昭41.12.24/昭和36年(ワ)548号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕
 一、懲戒処分無効確認請求について。
 同控訴人は被控訴人会社の従業員であるが、被控訴人が昭和三六年六月二一日同控訴人に対し、同控訴人が所管課長の承認を受けずに数回にわたつて職場において休憩時間中に「A」、「B」、「安全対策のためのアンケート」を配布した(成立に争のない甲第二号証の一から三まで、同第三号証の一から六まで、同第四号証によると、「A」は昭和三五年六月、七月、一二月中に計三回、「B」は昭和三四年五月中、昭和三五年一月、四月、一〇月、一二月、昭和三六年五月中に計六回、「安全対策のためのアンケート」は昭和三六年四月中に一回、それぞれ配布されていることが認められる)ことが、被控訴人会社の就業規則七二条三号等に該当する旨の事由をもつて、懲戒たる譴責をしたことは当事者間に争がない。
 被控訴人は、本件譴責は被控訴人会社の内部規律にかかわる事項であつて、その適否についての紛争は法律上の争訟ではないと主張するけれども、本件譴責は後に述べるように、少くともいわゆる始末書の提出義務を被懲戒者に課するものであつて、その適否は、被控訴人会社と対立する従業員個人の具体的権利義務の存否にかかわる事項であるから、被控訴人会社の自治ないし内部規律に任さるべきものではない。被控訴人の右主張は採用できない。
 さらに被控訴人は、本件譴責無効確認請求についての訴は、単なる過去の事実の存否の確認の訴にすぎず、確認の利益を欠く不適法な訴であると主張するので検討する。本件譴責は、前記(第一、一)のように、使用者において当該労働者の企業秩序違反の事実を認定して具体的な懲戒権の存在を確認し、かつ将来再び同様の秩序違反行為を繰返してはならない旨のその将来を戒める観念の表示ないし宣言(確認行為)であるが、同時にそれによつて当該労働者に対し、少くとも、労働者が当該秩序違反の事実を自認し、かつ将来これを繰返さない旨(不作為義務の確認)書面をもつて陳述すべき義務、すなわちいわゆる始末書の提出義務を負担せしめるものである。このような陳述義務が法的義務であることは、前記(第一、一)のとおりである。しかして、本件譴責無効確認の訴は、本件譴責、すなわち法律要件事実たる観念の表示行為が有効であるとすれば、少くとも、それから生ずべき現在の前記陳述義務(いわゆる始末書の提出義務)が存在しないことの確認を求めるものと解され、同控訴人はかかる確認を求める法律上の利益があるものといわなければならない(確認の利益がないとした原判決中当該部分は失当)。被控訴人の右主張は採用できない。