全 情 報

ID番号 03668
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 高知放送事件
争点
事案概要  解雇に関して裁判所で係争中である者が賃金仮払の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1971年3月10日
裁判所名 高知地
裁判形式 決定
事件番号 昭和45年 (ヨ) 153 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集22巻2号209頁
審級関係
評釈論文 小西国友・ジュリスト524号130頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 被申請人から申請人らに対してなされた前示各解雇の意思表示はいずれもその効力がなく、申請人らは引続き被申請人の従業員たる地位を有するものと一応認めることができるから、申請人らは被申請人から当然に賃金(基本給に諸手当を加算したもの)ならびに各季の一時金の支払を受ける権利を有するといわなければならない。そして、地位保全のごとき相手方の任意の履行に期待する仮処分命令には執行力がないが、右仮処分命令も裁判である以上当事者間に有効なものとして妥当するものといわなければならない。従つて、地位保全の仮処分命令の内容としては解雇された従業員が、解雇当時の労働条件に従つて待遇されるべきは当然のことであるのみならず、同種の一般従業員につき賃金その他の労働条件の改訂が行われた場合には、その改訂された条件に従つて待遇されなければならないとの趣旨をも内含していると解すべきが相当である。
 (中略)
 申請人らがY会社労働組合の組合員であり、一応被申請人の従業員としての地位にある者といえる以上、申請人らに対しても右労働協約の効力は及ぶものというべきである。もつとも、昭和四二年度の昇給については労働協約は成立せず、個々に契約が結ばれ、申請人らに関してはその契約がなされなかつたことが疎明されているところであるけれども、そもそも賃金の変更につき使用者と当該労働者との間でこれに関する契約をなすことを必要とするのは労働者の利益を保護する趣旨に出たものであると解せられるから、何ら労働者に不利な条件の付加されない賃金の増額のごときは、使用者の意思表示があれば労働者から異議のない以上黙示の承諾があつたと認めてしかるべきである
 (中略)
 使用者が従業員に対し賃金を支払うのは従業員との間に結ばれたところの労働力の提供と賃金の支払とを対価関係に立たしめる契約の履行という私法上の法律関係に基づくものであり、この理はたとえ裁判によつて給付を命じられるような場合であつても同様である。一方使用者が従業員の賃金から保険料や税金を控除し関係機関に納付しているのは本来従業員が申告し納税すべき義務を負うにもかかわらず特に国策上徴税の確実を期して賃金の支払をなす使用者をして賃金の中から徴収させ(所得税法第六条参照)、あるいは使用者が賃金に見合う保険料を関係機関に納付すべき義務を有するから(厚生年金保険法第八二条二項、失業保険法第三四条、健康保険法第七七条参照)、賃金の中から特に従業員の負担すべき保険料相当額を控除することが許されているにすぎない(厚生年金保険法第八四条一項、失業保険法第三三条、健康保険法第七八条参照)。いずれにしてもそれは使用者と従業員との法律関係に基づくものではなく公法上使用者が負担する義務の履行に由来するいわば反射的権利とでもいうべきものであるから、私法上の権利義務関係の確認に基づく給付命令の内容に何らの影響をもたらすものではなく、使用者は支払を命じられた金員の中から当然に保険料および税金相当額を控除することができるものと解される。