全 情 報

ID番号 03684
事件名 家屋明渡請求控訴事件
いわゆる事件名 興国ゴム工業事件
争点
事案概要  使用料月八〇〇円の社宅使用関係は、雇用契約の終了によって明渡すことを内容とする社宅使用契約というべきものであり借家法は適用されないとされた事例。
参照法条 民法593条
借家法1条の2
体系項目 寄宿舎・社宅(民事) / 社宅の使用関係
裁判年月日 1971年7月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (レ) 296 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報649号51頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔寄宿舎・社宅-社宅の使用関係〕
 一、請求原因事実については、被控訴会社と控訴人Xとの間に本件家屋について社宅としての使用貸借契約が成立したか否かの点を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
 二、そこで、本件家屋に対する控訴人Xの使用関係について検討する。
 (一)《証拠略》を総合すると、控訴人Xは、昭和一六年ころ、被控訴会社の前身でAの個人経営にかかるB会社に雇われ、昭和一九年二月にAを代表取締役とする被控訴会社が設立されるや同会社の従業員となり、以来昭和四四年三月三一日の退職に至るまで同会社において勤務してきたものであるが、昭和二〇年三月の空襲により都内押上に存した住家を焼却した際、たまたま、AがB会社を経営していたころに購入した本件家屋を含む三戸建一棟ほか三棟が、その後現物出資あるいは譲渡されて被控訴会社に帰属していたため、被控訴会社のすすめにより昭和二〇年五月二三日より本件家屋に居住することとなったこと、その使用料は入居当初一五、六円であったが、その後数次にわたる値上げを経て昭和三五、六年以降月額八〇〇円となり現在に至ったものであることが認められるところ、《証拠略》によれば、本件家屋を含む三戸建一棟は借地上に建てられているものであるため、被控訴会社は本件家屋の固定資産税のほか毎月の地代を自ら負担していることが認められ、このような費用の負担関係に加えて(特に右地代を仮に三戸建一棟の居住者である控訴人Xら三名に平等負担させるとすれば、右使用料を上廻る一戸あたり月一、五〇〇円になることが計算上明らかである。)、本件家屋が、木造亜鉛メッキ鋼板葺二階三戸建一棟のうちの一戸であり、一階二九、七五平方メートル、二階一九、八三平方メートルであって相当な広さを有することに鑑みると、少なくとも昭和三五、六年当時において右月八〇〇円の定めは本件家屋の使用の対価というには著しく低額であって、実質的には被控訴会社の本件家屋の管理費用に対する実費の一部に充てる程度にすぎないものというのが相当である。
 次に当審証人Cの証言によれば、同証人は、被控訴会社の従業員ではなく、本件家屋とほぼ同規模の被控訴会社所有の隣家に居住していたものであるが、本件家屋より立地条件が低位であるにかかわらず、従業員である控訴人Xより高額の月一、八〇〇円の使用料を支払っていたことが認められること、《証拠略》を総合すると、被控訴会社においては社宅入居者を除く従業員に対しては昭和四一年より住宅手当を支給していたが、控訴人Xに対しては右手当支給の事実がなかったことが認められるのに、これに対し同控訴人からとくに異議が述べられた事情も窺われないこと、さらに控訴人Xは、昭和四二年一月二九日ころ、他の社宅ないし社員寮入居者とともに、被控訴会社の求めに応じ、本件家屋につき借家人としての権利を取得するものではない旨の入寮誓約書を提出したが、その際とくに混乱は起らなかったこと(この点につき、控訴人Xは、当審において、被控訴会社の労務担当のDからおどかされてやむなく提出した旨供述するが、右供述は前記各証拠に照して措信しがたい。)が認められる。
 以上認定の諸事情に照らせば、本件家屋に関し、被控訴会社と控訴人との間でその使用関係につき控訴人Xとの雇傭関係の存続を前提とし、これが終了すれば同控訴人において明渡すことを内容とするいわゆる社宅使用契約が成立したものと認めるのが相当であり、したがってこれに対しては借家法の適用はないものというべきである。