全 情 報

ID番号 03690
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社事件
争点
事案概要  電電公社の職員が国際反戦デーに参加し、兇器準備集合罪で逮捕、起訴されたことを理由とする懲戒免職処分につき、公社の信用失う場合にあたるとして有効とされた事例。
 起訴休職制度がある場合に、起訴の対象となった行為を懲戒免職処分の対象とすることも二重の不利益を課するものではなく相当であるとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
裁判年月日 1971年8月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 2384 
裁判結果
出典 労働民例集22巻4号777頁/時報651号100頁/タイムズ266号151頁/訟務月報17巻12号1819頁
審級関係
評釈論文 西廸雄・判例タイムズ274号96頁/萩沢清彦・昭46重判解説181頁/本松正・地方公務員月報111号24頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕
 4 昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー(以下国際反戦デーというときは当日のそれをいう)における反代々木系学生や反戦青年委員会の若手労働者らの前認定の暴力的行動は、その動機や目的が何であつたにせよ、法治国家としては到底許し難い所為であり、反社会性の極めて高度なものといわざるを得ない。彼らの行動を目撃し、あるいは報道機関の報道によつて知つた一般国民が、その反社会的な異常さに驚き、怒り、あきれたことは少なくとも東京都では公知の事実であり、前示乙第二五号証の一ないし九の各記載からもこれを十分に窺うことができる。ところで前認定の申請人の行為は、それ自体反社会性の強い罪に触れるものであるが、前認定したところによれば、前認定の申請人の行為は、反代々木系学生や反戦青年委員会の若手労働者らが国際反戦デーを期して計画的に敢行した集団的過激行動の一環としてなされたものと見ないわけにはいかないのであつて、この観点に立つと申請人の前記行為についての反社会性の評価は加重するのを免れないところである。
 当時申請人は被申請人の職員であつた。被申請人は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備および拡充を促進し、ならびに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された企業であり(公社法第一条)、その資本金は全額政府が出資している(同法第五条)。被申請人が右のような企業であり、その業務の公共性が高度であるところから、法は被申請人の職員に対し、全力を挙げてその職務の遂行に専念すべきことを命じており(同法第三四条二項)、このようなことは一般私企業では例を見ないところである。その反面被申請人の職員は、一般社会から、右のような公共性の高度な企業に勤務しその職務に専念しているものとしての好ましい評価を与えられている。右のような社会的評価は職員としての信用と言い換えてもよい。また、右のような社会的評価を保持することが職員としての品位だと解して大過ないであろう。
 このように考えて来ると、国際反戦デーにおいて申請人が前認定のような反社会性の著しい非違行為を敢てなし、前認定のように報道されたことにより、申請人が被申請人の職員としての品位を傷つけ、信用を失つたものであることはこれを認めないわけにはいかない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 他方、職員が被申請人に勤務する法律関係は、職員が公社法上前叙のような規制を受けているため多少問題の存するところであるが、私法上の雇用契約関係と解される(したがつてそれは公法上の関係ではないから職員に対する懲戒処分には行政庁の行政処分に見られるようないわゆる公定力は認められないことになる。)。したがつて職員は、雇用契約上の義務ないしこれに伴う信義則上の義務の履行について欠けるところがない限り、その行動について被申請人からとやかく言われる筋合は毛頭ない。しかし、職員は、被申請人との間の右のような法律関係を継続することを媒介として自己の経済生活を営むほか、好むと好まざるとに拘らず一個の企業体としての被申請人の組織の構成に参加し、社会的、客観的な事実として被申請人に向けられる一般社会の評価としての信用の一端に多かれ少かれ与かるのである。前述の職員としての品位なり信用なりもこのことと密接不可分に関連している。それ故職員は職員である以上被申請人の保有する有形、無形の利益を損わないようにすべき信義則上の義務を負うものといわなければならないが、事の性質上右の義務は職員が企業外に在る場合でも免れることができない。そうである以上、職員が企業外の非違行為によつて企業秩序を害したため懲戒処分を受けることがあつても止むを得ないものといわなければならない。
 このように考えると、職員の非違行為が企業外でなされたとの一事によつて総裁の懲戒権行使が制約されることはないといわなければならず、したがつて申請人の前記主張は前提が失当となるから採用できない。
〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
 公社法第三二条一項は、被申請人が職員を休職させることのできる事由を限定して職員の地位の保障を図つたものと解される。ところで職員が刑事事件に関して起訴されたときその意に反して休職とされることのあるのは、公社法第三二条一項によつても免れないこと明らかであるが、このような休職は、職員が刑事事件に関して起訴されたこと(これは起訴の対象となつた非違行為とは別の事実である)により該職員に就労を継続させることが不適当であると認めた被申請人が該職員を解雇するのを避けるために行う措置であつて、起訴の対象となつた非違行為の責任を問うものではない。公社法第三一条は職員の解雇を免職と呼び、降職と並べてその発令事由を制限しており、被申請人は職員が刑事事件に関して起訴されたことによつて該職員を免職することはできないが、これは同条の規定がしからしめるのであつて、それによつて前叙の起訴休職の本旨は、若干覆われる嫌いはあつても変ることはない。
 他方、公社法第三三条に規定され、総裁が行うこととされている懲戒処分は、職員の非違行為があつたときその責任を問うことを本旨とするものであり、そのうち免職処分はその手段として該職員を被申請人から排除するものであることは言うまでもない。
 そうだとすると職員に対する起訴休職処分と、該起訴の対象となつた非違行為による懲戒免職処分とは、処分者、目的、事由、効果すべての点で異るものといわざるを得ない。両者は別のものである。したがつて起訴休職中の職員を該起訴の対象となつた非違行為の故に懲戒免職処分に付することは公社法上毫も妨げのないものであり、それが同一の事由によつて職員に二重の不利益を課するものであるという非難は当たらない。