全 情 報

ID番号 03693
事件名 公務外認定取消ならびに給与支払等請求事件
いわゆる事件名 熊本営林局事件
争点
事案概要  休憩時間中に業務に従事していてキャッチボールの球にあたり負傷した営林局職員が公務上認定をめぐって争った事件で、給与等の差額も含めて請求された事例。
参照法条 国家公務員災害補償法1条
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1971年8月23日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行ウ) 6 
昭和45年 (行ウ) 4 
裁判結果 (確定)
出典 時報649号87頁/タイムズ270号313頁/訟務月報17巻10号1615頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 原告は、休憩時間中に業務に従事していたものであつて、それが上司の命によるものであることについてはこれを認めるに足りる証拠は存しないが、前記認定のように、本件事故当時多忙をきわめ、特に休憩時間を利用した方が公務達成に好都合な事情が存し、その行為の内容も通常の職務と何ら異なるところがないことからすると、本件事故は、公務遂行中のものと認めるのが相当である。
 (中略)
 本件事故は、前記のとおり、休憩時間中に公務遂行中、たまたま職員のキヤツチボールの球がそれて当つたことによるものであり、休憩時間中職員が構内でキヤツチボールをすることは、通常見受けられるところであるから、右の事実のみをしても業務起因性を認めえないわけではないが、加うるに、(証拠省略)を総合すれば、本件事故当時の前記渡り廊下の状況は、右渡り廊下を隔ててその両側が中庭となつており、右渡り廊下には屋根があるだけで下部には何等障壁がなく、営林局職員は、日ごろ休憩時間中に、右両中庭において、網を張るなどの防護措置をとることなく、前記渡り廊下と交叉するような位置でキヤツチボール等をするのを常としていたものであるが、そのため本件事故前の昭和三八年夏ごろにも職員の訴外A、同Bが前記中庭を通行中野球ボールにあたり軽傷を負つたことがあるほか、右中庭に面していた文書書庫の窓ガラスは飛来するボールで再三破損され、休憩時間に同書庫内に在室することは危険な状態にあり、かつ、また隣接の訴外C方には、暴投球が飛び込んで硝子、屋根瓦を破損したこともあり、同訴外人から、職員に直接口頭で抗議を受けたばかりでなく、昭和三九年一月九日には、被告熊本営林局長あてに右趣旨を記載した陳情書を提出されたこと、その時まで被告熊本営林局長は前記のような中庭での休憩時間中における職員のキヤツチボールを黙認し、同月中旬ごろ、初めて総務部長名でもつて、構内におけるキヤツチボール、打球練習等を禁じる旨の部内通達を出し、構内の一部にネツトをはつたことが認められ(内認定を左右するに足りる証拠はない)ることからすれば、本件事故現場である渡り廊下の両側の中庭でのキヤツチボールには、右渡り廊下を通行する者に危険を及ぼすおそれが当然予想されるところであるから、その管理権者たる被告熊本営林局長は、これに対し何らかの危険防止策をとるべきであり、このことを黙過して何らの措置もとらなかつたことは、その施設管理に瑕疵があつたものというのほかはなく、この点においても、本件事故は公務に起因するものといわねばならない。
 されば、本件事故による傷害は公務上の災害であるといわねばならず、原告の本件被告国に対する確認請求は理由がある。
 (中略)
 定期昇給について任命権者の発令行為が必須の要件であるか否かについて検討するに、前記当事者間に争いがないところの労働協約条項は、労働条件に関するもので規範的効力を有するものであり、この条項は労働条件の中でも基本的部分に属し、これは個別的な労働契約の内容となるものと解するのが相当であるから、任命権者の発令行為をまつまでもなく、右労働協約条項に従い定期昇給したものとして取り扱うべきものと解する。