全 情 報

ID番号 03698
事件名 休職処分効力停止金員支払等仮処分申請事件
いわゆる事件名 松下電器産業事件
争点
事案概要  首相訪米阻止闘争に参加して兇器準備集合罪、公務執行妨害罪で起訴されたことを理由として現場工員である従業員が起訴休職処分とされ、右処分により就労が拒否されたケースで、右処分の効力および就労請求権の存否が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
裁判年月日 1971年9月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和46年 (ヨ) 1472 
裁判結果 一部認容・却下
出典 時報652号85頁/タイムズ269号237頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
 右休職基準および休職期間の定め方から考えて、被申請人における休職制度は、少なくとも休職基準(1)ないし(6)に関する限り相当程度の期間にわたり従業員が被申請人の業務に従事できない場合、人事管理上の必要から、その業務に従事できない期間その勤怠上の身分の取扱いを休職ということにして暫定的に確定することを目的とするものであると考えられる。
 ところで基準(7)の起訴休職の場合であるが、就業規則が「起訴され必要あるとき、判決確定までの期間」休職させる旨定め、起訴による休職期間中の賃金が原則として支払われない建前になっていること、すなわち、本人の意に反して判決確定までの期間企業から排除され不利益をもたらすことになるから、起訴による休職は従業員が刑事事件による起訴をされた場合起訴を理由に形式的一律に休職の取扱いをすべきものではなく、その起訴自体によって企業内の秩序維持に重大な影響を及ぼす場合、あるいは企業の信用失墜をもたらすことが明白な場合に当該従業員を判決確定までの期間被申請人の業務から暫定的に排除するものと解するのが相当である。
 したがって、休職基準(1)ないし(6)が現実に業務に従事しえない期間休職の扱いをするのに対し、基準(7)は起訴された従業員が現実に業務に従事できるか否かを問題とするまでもなく、起訴それ自体により判決確定までの期間企業業務に就かせることが不適格であると認められる場合、しかもその不適格性の認定については他の休職基準の現実に業務に従事できない事由と同視される程度に客観的なものでなければならない。
〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕
 申請人らに対する公訴事実の要旨は、申請人らは、それぞれ昭和四四年一一月一六日東京で行われた首相訪米阻止斗争で、警備に従事する警察官の身体等に対し、多数の労働者と共同で危害を加える目的を以て、国電蒲田駅東口広場付近で火炎びん、鉄パイプ等の兇器を携帯して集合し、更に多数の労働者らと共謀のうえ、その頃違法行為の制止・検挙等の任務に従事していた警視庁警察官らに対し、火炎びん、石塊を投げつける等の暴行を加え、その職務の執行を妨害したものであるというのであって、それは政治的かつ思想的な動機に由来する行動に伴い生じたものであるといっても、その惹起された結果は、疎明によると当日の国電、京浜両蒲田駅周辺で多数の火炎びん、石塊が投げられ、国鉄、私鉄のダイヤが混乱し、通行人等にも多大の被害をでたことが窺われ、社会に対して及ぼした影響は大なるものがあり、その責任が判断されなければならないものであるが、その斗争には当時学生や若手労働者の一部が全国から参集しており、被申請人の一現業工員である申請人らが右事実で起訴されたというだけで被申請人の対外的信用が特に毀損されたとも窺われず、また申請人らが起訴されたことにより従業員間に多少の違和があるとしても、起訴された事実は企業外において職務と無関係になされたものであり、起訴されたというそのことだけによって職場秩序の維持にそれほど重大な障害を生ぜしめるものとは考えられない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 雇傭契約は労働者の提供する労務と使用者の支払う報酬とを対価関係にかからせる双務契約であり、労働者の労務の提供は義務であって権利ではないから、雇傭契約あるいは労働協約等に特別の定めがある場合を除いて労働者に就労請求権はないと解すべきである。
 (中略)
 申請人らは被申請人の従業員で組織されているA労働組合の組合員であり、右組合の事務所が申請人ら所属の各事業所構内にあること、組合員相互の接触の必要性あることが窺われるので、申請人らは被申請人から就労を拒否されていると否とにかかわらず組合員たる資格に基づき右構内に入構する権利を有することが認められる。
 もっとも、入構する権利が認められるといっても、現実の就業時間中における他の従業員の職務専念義務を侵さない限度において認められるものであることはいうまでもない。