全 情 報

ID番号 03702
事件名 従業員たる地位確認事件
いわゆる事件名 大同木材工業事件
争点
事案概要  試用期間中の労働者に対する、職場および寮生活における協調性の欠如を理由とする解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
解雇(民事) / 解雇事由 / 協調性の欠如
裁判年月日 1971年10月6日
裁判所名 松江地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 19 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ279号270頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 右事実によれば原告の試用期間の満了日である昭和四五年一月六日頃被告会社は原告に対し黙示による試用期間延長の意思表示をしたものと認めるのが相当であり、前記認定のような事情の下においては、右試用期間の延長は本件就業規則第四二条に違反しないものと解するのが相当である。従つて本件解雇の意思表示がなされた当時原告は被告会社の試用工たる身分を有していたものといわなければならない。
 前記認定事実に〈証拠〉を総合すると本件就業規則には「新規採用者の試用期間は六ケ月以内とする」旨の規定があるが、右は従業員の雇傭期間を定めたものではなく、文字どおり新規採用者の試用期間を定めたものであり、被告会社の従業員の雇傭期間については何等定めのないこと、被告会社は民法上の雇傭契約の解約として本件解雇の意思表示をしたものであることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。右のように雇傭期間の定めのない雇傭契約については使用者において労基法第二〇条第一項により少なくとも三〇日前にその予告をして当該雇傭契約の解約を申し入れることができ、労働契約、就業規則及び労働協約等により右解約申し入れの理由につき制限が付せられていない以上、使用者は原則として予告解雇の自由を有し、右解雇が解約権の濫用に当らぬ以上有効なものと解するを相当とするところ、試用期間は労働者の職務上の能力、人物を判断することを目的として設けられたものであるが、労働契約と別個の契約ではなく、試用の当初から労働契約が締結されているものであり、従つて本件就業規則中普通解雇に関する規定は試用工にも適用されるものと解せられるところ、〈証拠〉によれば本件就業規則には従業員の普通解雇に関し次のような規定の存することが認められる。
〔解雇-解雇事由-協調性の欠如〕
 (一) 原告の勤務態度
 原告は、昭和四四年七月七日被告会社の境港工場の合板工として仮採用となり同工場A寮に居住していた。
 被告会社では仮採用工員をロータリー班、ドライヤー班、切断班等に順次配属し、技術を見習い習得させることにしていたが、原告はいずれも始めての作業であるから技術面で未熟であるのに、上長の指導・指示に従わず同僚との間にもとかくのトラブルがあつた。例えばドライヤー班所属当時、ロータリーで巻取つた単板を合板にする前にドライヤー(乾燥機)にかけて乾燥させる仕事に従事していたのであるが、四基のドライヤーを各チーム(四~五人編成)が各週毎に順番に交替して使用するにつき、原告は部署の回転に応じないことがあつた。ドライヤーの作業は単板の差し手と受け手の呼吸が一致しないと能率が上らないにも拘わらず原告はとかくその調和を乱し、個人プレーに走ることが多く、上長の指導にも拘わらずその態度を改めようとはしなかつた。切断班に所属していた当時、切断された単板を機械の前方で二人向い合つて取る作業に従業中、二人が協調して作業をしなければならないにも拘わらず、原告は相手方を無視し、故意によそ見をしたり横を向いたりし、仕事振りは緩慢であつた。
 (二) 寮生活における態度
 原告は、生来無口な性格ではあつたが、寮生と日常の挨拶を交わすことも少なく、レクレーションにも参加せず、寮生の共同使用の洗濯機を独占して譲り合わないこともあり、極めて協調性に乏しかつた。
 昭和四四年一一月一五日の夜、原告は寮生のB、C、D、E等と飲酒雑談中、些細なことから口論となり、Bから下駄で頭を殴られたことに立腹、興奮のあまり、わざわざ警察官を呼んで事情を説明した。
 同四五年一月九日食堂で昼食中、当日原告は朝から胸やけがして気分が悪かつたこともあつたが、口に含んだ食物を食卓の上にパッと吐き出し、周囲で共に食事をしていた人々に嫌悪感を与えた。
 以上認定に反する甲第一六号証の供述記載は前掲各証拠に照して信用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
 右事実によれば原告は試用工として業務の習得に熱意がなく上司の指導に従わず、技術も劣り低能率で、協調性にも乏しく集団生活にもなじまなかつたことが認められるから、原告には本件就業規則第四七条第三号の事由が存したものと認めるのが相当である(なお被告会社は、寮の食物が不潔だと虚偽のこと云つて原告がこれを松江保健所に持参したことを解雇の一理由としているが、前掲甲第一六号証に証人Fの証言を総合すると右は被告会社が本件解雇を決定した日の翌日である一月一〇日の出来事であることが認められるから、これを本件解雇の理由として斟酌することはできない。)
 よつて本件解雇は有効であるから、原告の被告会社に対する従業員たる地位の確認及び賃金請求は理由がなく、又本件解雇の無効を前提とする損害賠償請求もその余の点を判断するまでもなく失当であるからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。