全 情 報

ID番号 03708
事件名 解職処分取消請求事件
いわゆる事件名 習志野市保育園事件
争点
事案概要  条件付採用中の市立保育園保母に対する、居眠り、指導計画提出遅延等による保母としての不適格であることを理由としてなされた解職処分につき、指導、助言により矯正しうるものであるとして違法とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法21条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1971年12月8日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 13 
裁判結果
出典 タイムズ272号285頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 3、 本件解職処分の効力
 以上検討したところによれば、適格性の有無を判断するに当つて原告の責任を問い得る事実は、被告の主張する処分事由のうち(1)ないし(3)、(7)、(8)の事実だけである。
 そこで、右処分事由となり得る事実だけで適格性を欠くといえるか否かについてさらに検討するに、適格性を欠くといい得るためには、当人の素質、能力、性格、普段の勤務態度等からいつて、その職にふさわしくないという顕著な特性が存し、それが容易に矯正することのできない程度のものでなければならない。換言すれば、ある一定の行為が同人の公務員としての不適格性の徴表と見られる場合でなければならないと考えられる。
 これを本件についてみるに、前記処分事由となり得る事実は、それ自体保母としての責任感や職務に対する熱意に乏しい等の評価を受けてもやむを得ない事由ではあるが、〈証拠〉を総合すると、原告は、A大学英文科を卒業後貿易会社等に勤務していたが、子供好きで、子供との接触の多い職に就きたいとのかねての念願から、昭和四一年に私立保育所の保母見習いに転職、勤務のかたわら勉学してその翌四二年に保母資格試験に合格し保母資格を取得、昭和四三年四月にB保育所の保母となつたものであり、保育に当つては、子供達が明るくのびのびとそして思いやりのある子に育つて欲しいということをいつも念頭において、普段はいろいろ保育に工夫をこらし、積極的かつ熱心に保育に従事していたもので、子供達に好かれ同僚保母や父兄からも信頼を寄せられていたこと、原告は職員会議などで保母のあり方などにつき活発に意見を述べ、C主任保母と衝突したこともあつたが、それは保母として再出発を期するものの意気込みの現れとみられること、本件解職処分がなされる前の九月二六日に、原告が一たん依願退職する意向を明らかにした際、当時の市の総務部長Dが原告に対し、私立保育所への就職をあつせんするに当り、自ら原告の保証人になることを申し出ていることが認められ、〈証拠判断-略〉。
 そして、前記処分事由となり得る事実も、前項認定の事実に照らすと、保母としての本質的能力に疑念をさしはさむほどの重要なものとはいい難いうえ、〈証拠〉によれば、(1)、(2)の事実について、原告は当日直ちに母親あるいは所長に謝罪して反省の態度を示し、以後同じような誤りを犯していないことが認められるし、又、(1)、(3)の事実についても、主任保母から注意を受けた後同じ誤りを繰り返していないことが弁論の全趣旨により認められる。
 以上の事実に照らして考えると、前記処分事由となり得る事実は、いずれも上司の適切な指導や助言があれば溶易に矯正することが可能であり、又原告においても、その至らない点を深く反省し、保母としての経験を積み重ねることによつて容易に矯正することができる程度のものとみられるのであつて、条件付採用期間が一面においては未だ未完成な職員の教育期間としての面をもつていることを合わせ考えると、偶々本件のような事由があつたとしても、引き続き任用しておくことが不適当であるとはいえず、又直ちに保母としての職業上の不適格性の徴表とみるのも相当でないといわなければならない。
 そうすると、原告において反省を求められる点は少くないけれども、被告が、原告は習志野市任用規程施行内規四条の「その職に必要な適格性を欠」いているとしてなした本件解職処分は、その基礎とした本件解職処分事由のうち相当重要な部分が欠けているのに加え、その余の事実も原告の不適格性を裏付けるに十分でなく、結局先に述べた裁量基準を逸脱するものと解せざるを得ないから、前記施行内規四条の適用を誤つたものとして、その余の点を判断するまでもなく違法であり、取消を免れないものといわねばならない。