全 情 報

ID番号 03726
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 京王帝都電鉄事件
争点
事案概要  バス運転士が勤務終了後に飲酒し、自家用車を運転して交通事故を起し、被害者である歩行者を死亡させたことを理由としてなされた懲戒解雇の効力が争われた事件(請求棄却)。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1986年3月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ヨ) 2245 
裁判結果 却下
出典 労経速報1251号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 債権者は、本件事故の際、酒気帯び運転を行っていたのである。前記の事実関係によると、債権者は運転に先立って仮眠をとるなど一応酒気を除くことに配慮したものと思われるが、事故後の検査時における呼気中のアルコール濃度が法定の許容限度を大きく上回っていることに照らすと、右配慮が極めて不十分なものであったといわざるを得ない。
 これらのことから考えると、本件事故及び酒気帯び運転の事実は、たとえそれらが勤務時間外の私的な行為に伴って発生したものであっても、多数の生命を預るべきバス運転士には決してあってはならない非行と評価せざるを得ない。したがって、これらの債権者の行為はその職務上の義務に著しく違反するものであり、そのような運転士がいること自体が債務者会社の信用を著しく害しかつ体面を著しく汚すものであると考えられる。そして、債務者会社は、債権者を運転士として採用したのであるから、債権者が右のような行為をした以上、債権者を他の職種に配転するなどして雇用を継続すべき義務はなく、懲戒解雇の措置をとったことはやむを得ないものと考えられる。
 なお、債権者は本件解雇が債務者会社における他の懲戒事例と比較して不公平なものである旨主張し、疎明資料によると、確かに債務者会社の従業員の中には交通事故を起こして債権者より重い刑事処分等を受けたのに解雇されていない者もいることが認められるが、その事件の内容や当該従業員の地位などに照らすと、債権者の場合より明らかに悪質と評価すべき事案は見当たらず、本件処分が他の者に対する処分と比較して公平を欠くものと認めることはできない。