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ID番号 03742
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 国鉄直方気動車区事件
争点
事案概要  国鉄職員が、助役に対する業務妨害余剰人員に対する講習での業務指示不遵守等を理由として懲戒免職処分に付されたのに対してその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1986年3月31日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ヨ) 168 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例474号18頁
審級関係
評釈論文 石井将・労働法律旬報1146号53~55頁1986年6月25日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 疎明によれば、就業規則の定める懲戒処分は免職、停職、減給、戒告の四段階あることが認められるところ、このうち免職処分は、被処分者の職員たる地位を失わしめるという他の処分とは異なった重大な結果を招来するものであるから、その選択に当たっては、他の処分の選択に比較して、特に厳重な配慮を要するものと言うべきである。
 ところで、申請人は、本件以前にも、戒告、厳重注意、更には減給(未発令)の処分歴を有しながら、反省の態度なく、企業秩序ないし規律を軽視して、職場で紛争が生じれば、積極的に参加して、集団中でも目立つほど粗暴かつ攻撃的な言動を行い、特に、上司である区長、助役らに対して、正当な理由もなく口汚なく罵る行為を繰り返した上、ついには、多数の管理職及び組合員らの面前で、助役に対し唾を吐きかける行為に及んだものであり、その結果、当該助役に与えた屈辱感、嫌悪感、不潔感等の精神的衝撃は大きく、企業秩序に与えた悪影響も軽視できないものであり、しかも、申請人は、その後も反省の態度なく、すべての責任が被申請人の側にある旨強弁していることなどを考慮すると、申請人の責任は重大であると言わなければならない。
 しかし、反面、本件の背景事情としては、被申請人と申請人所属の国労とが事毎に鋭く対立し、それが申請人の職場である直方気動車区における当局と職員との関係に尖鋭な形で反映しており、前認定の申請人の行為は、いずれも個人的行動ではなく、こうした背景の下での他の組合員らとの集団的行動であったこと、また、申請人は分会の役員ではなく、唾の吐きかけを除いては、右の集団的行動の中で、特に指導的ないし中心的存在であったとまでは認められないこと、右の各行為は、ほとんどが被申請人の本来の業務である列車の運行業務とは直接関係のない場面におけるものであり、列車の運行自体への直接の影響もなかったこと、唾の吐きかけ行為も、傷害行為とは異なり、身体に対する苦痛、損傷を伴っていないこと、申請人が置かれた余剰員という地位は、実作業に就くことなく、毎日を講義、待機等により過ごし、実作業に復帰する目途も立たず、諸手当がないことによる減収も伴っており、それが非常に辛く厳しいものであることは想像に難くないこと、更に、同気動車区における職員管理は、職員側の極めて非協力的な姿勢に原因があるとはいえ、やや柔軟性を欠いた硬直的な対応も散見されること、本件処分前に申請人の受けた処分が減給処分(未発令)までにとどまっていることなど、申請人にとって汲むべき事情もあり、それに加えて、右集団的行動に参加した他の職員に対する各処分との軽重を比較するなど、諸般の事情を総合考慮すると、本件処分は、被申請人の企業秩序の維持確保の見地からも、その原因となった行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠き、裁量の範囲を超えたものと認めるのが相当である。したがって、本件処分は、被申請人による懲戒権の濫用であり、違法にして無効と言わざるを得ない。