全 情 報

ID番号 03789
事件名 出向および配転命令無効確認等請求事件/転勤命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本ステンレス事件
争点
事案概要  子会社への出向命令を拒否した三名に対する懲戒解雇、子会社に出向していたのを一たん親会社に復帰したうえ他の事業所への配転命令を拒否した一名に対する懲戒解雇につき(第一事件)、また同じく親会社に復帰したうえ他の事業所への配転命令の無効確認につき(第二事件)、第一事件において寝たきりの両親の世話をする必要のある者については人事権の濫用として出向命令を無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 復帰命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1986年10月31日
裁判所名 新潟地高田支
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 27 
昭和58年 (ワ) 35 
裁判結果 一部棄却・却下・認容
出典 時報1226号128頁/タイムズ631号76頁/労働判例485号43頁/労経速報1281号3頁
審級関係
評釈論文 手塚和彰・判例評論349〔判例時報1260〕208~213頁1988年3月1日/森戸英幸・ジュリスト918号116~118頁1988年9月15日/大橋範雄・労働法律旬報1173号58~64頁1987年8月10日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
〔配転・出向・転籍・派遣-出向と配転の区別〕
 前記のとおり、被告Y1会社従業員就業規則第四条には「(転勤・出向又は職場の変更)従業員は正当な理由なしに転勤、出向又は職場の変更を拒んではならない」旨の規定が存在することは当事者間に争いがないところ、右規定は出向・配転の根拠規定であり、労働契約の内容をなしているものであって、使用者は労働者に対し、右規定に基づき個別的同意を必要とすることなく、出向・配転を命ずることができるといわなければならない。なお、《証拠略》に照らしても、原告らの入社時に勤務場所を直江津に限定することの合意があったことは認めるに足りない。
 また、《証拠略》によれば、被告Y1会社とA会社は本店所在地も同一場所であること、役員構成においても六名の役員のうち五名は被告Y1会社との兼務であること、A会社の業務の指揮監督権も人事権も被告Y1会社において立案、決定されること、賃金、労働時間その他の労働条件についても直江津製造所と同一であり、労働協約も同一のものが適用されること、A会社は将来被告Y1会社に吸収合併されることを前提に設立されたこと、が認められ、これによれば、被告Y1会社とA会社は実質的にみれば同一の会社であると認められる。
 右によれば、被告Y1会社からA会社への出向については、形式的には別会社であることから指揮監督権者に変更が生ずるとしても、実質的に出向労働者の給付すべき義務の内容の変更は配転の場合と特段の差異を生じないと認められ、このような場合には労働者の同意はもとより必要ないものといわなければならない。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 《証拠略》によれば、原告X1の母は昭和四〇年脳出血で倒れ、左半身麻痺、言語障害、脳障害に陥り、昭和四九年一一月二〇日新潟県知事から言語機能障害四級、肢体不自由三級(脳出血左片麻痺、上肢不自由五級の二、体幹不自由三級)の身体障害者の認定を受けていたこと、その後機能回復訓練により左足を引きずりながらも歩行可能な状態となったが、脳障害の後遺症により、うつ状態、高血圧症で治療を受けていたこと、昭和五四年五月七日二度目の発作が起り、脳硬塞で倒れ、右半身麻痺により寝たきりの状態となり、体幹不自由一級、言語機能障害四級の身体障害者の認定を受けたこと、一方父は母が倒れて後、原告X1と共に一町歩余りの田を耕作し、農協の監事の仕事もしていたが、本件出向命令の約三か月前の昭和五三年八月脳血栓で倒れて右半身麻痺の状態となり、治療の結果右足を引きずりながらも歩行可能な状態まで回復したが、農作業には従事できず、昭和五四年四月には農協の監事も辞職したこと、そして昭和五五年九月一六日新潟県知事から上下肢不自由五級の身体障害者の認定を受けたこと、昭和五三年一一月当時原告の姉は結婚して別居しており、妹は東京の学校へ就学し、原告X1が両親と同居し、両親の面倒をみていたこと、を認めることができ(る。)《証拠判断略》。
 右事実によれば、本件出向命令当時、原告X1の家庭状況は相当に厳しく、身障者である両親にとって原告X1は不可欠の存在であったといわなければならず、また証人Bもその証言(第一回)で原告X1の家庭状況が他の原告らの中で厳しい状況にあることを認めているところである。
 被告Y1会社は、原告X1が昭和四九年から昭和五二年までの冬季期間会社の寮に宿泊し、昭和五三年も宿泊の申込みをしていることを理由に挙げて、転勤しても支障はない旨主張するが、右冬季期間の入寮及び入寮の申込みは、豪雪による通勤不能な事態になった時に備えてのことであり、右宿泊申込みの事実があったことから直ちに転勤に支障を来さないとはいえず前記認定を左右するものではない。
 以上によれば、被告Y1会社が原告X1に対してA会社への出向を命じたことは、右のとおりの原告X1の側における家庭の事情を考慮すると酷に失するといわざるを得ず、被告Y1会社自体が人選の基準として樹てた前認定の(ハ)の基準、すなわち、「家庭の事情」を考慮する、との方針にも矛盾して来ることは否定し難いところであって、結局、原告X1の側の右事情を無視した不当な人事といわなければならない。
 従って、原告X1に対する本件出向命令は、人事権の濫用として無効である。
〔配転・出向・転籍・派遣-復帰命令〕
 被告Y2会社は、被告Y1会社の直江津製造所における製品、半製品の包梱荷造り、精整等を目的に昭和五二年一〇月一日被告Y1会社の子会社として設立されたことは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、労使間の合意により、出向者の身分は出向元である被告Y1会社にあること、出向者に関する賃金、労働時間その他労働条件は被告Y1会社と同一とすること、出向の意義・目的が失われた場合は被告Y1会社に復帰させること、の合意が成立していたことを認めることができ、以上によれば、原告X2は被告Y1会社との雇用契約を維持しつつ業務上の都合により被告Y1会社に復帰することを予定されながら出向していたものであって、原告X2と被告Y2会社との間に雇用契約が締結されていたとは認め得ない。従って、本件復帰命令が解雇にあたるとする原告X2の主張は失当である。
 右認定のように、原告X2の被告Y2会社への出向はいわゆる在籍出向にあたるが、在籍出向において、出向元が出向関係で解消し復帰させるため、出向解除命令を発する場合、出向先で恒久的に労務を提供する合意があったなどの特段の事情のない限り本人の同意は必要がないというべきである。けだし、右の場合における出向解除命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督のもとに労務を提供するということは当初の出向元との労働契約で合意されていた事柄であるからである。そして、本件においては前認定のとおり被告Y1会社に復帰することが予定されていたのであるから、前記特段の事情も認められない。従って、本件出向解除命令は原告X2の同意を必要とせず有効になしうるというべきであり、これに反する同原告の主張は失当である。