全 情 報

ID番号 03814
事件名 雇傭契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 辰巳タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手が会社の許可なくガス器具の販売業を営んでいたことを理由として懲戒解雇されたのに対し、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法19条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
解雇(民事) / 解雇制限(労基法19条) / 解雇制限と業務上・外
裁判年月日 1989年2月16日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 1236 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ696号108頁
審級関係
評釈論文 林豊・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕400~401頁1990年10月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕
 乗客の生命、身体を預かるタクシー会社にとって事故を防止することは企業存続上の至上命題であり、社会的に要請されている使命でもあるから、従業員たる運転手が非番の日に十分休養を取り体調を万全なものとするように期待し、且つ、心労や悩みの原因となる事由をできるだけ排除し、もって安全運転を確保すると共に、従業員の会社に対する労務提供を十全なものたらしめようとすることは当然であり、このような趣旨から被告が従業員の副業を懲戒解雇事由として禁止していることには十分な合理性があるものと解すべきである。しかるところ、前記認定によれば、原告が従事していた副業は、曽ては本業としていた程の営業であり、売上高や利益は原告自身が述べるとおり現在でも相当額に達し、単なるアルバイトからの臨時収入といえない程原告の生計にとって不可欠な規模に達しており、原告自身がその販売、配達、据付、修理等の労務に従事することにより、非番等の日における心身の休養時間が少なくなるのみならず、経営上の悩みや心労を伴うことが不可避であるといわなければならない。しかも、原告は、被告会社において副業が禁止されていることを十分認識していながら、就職後も継続して右の副業に従事していたのである。
 したがって、原告が右のとおり副業を行いながら被告会社の運転業務に携ることにより、事故防止というタクシー会社に課せられた使命の達成が危うくなると共に、従業員の会社に対する労務提供の確保という目的も達せられなくなることは明らかであるから、原告が右のとおり副業を行っていたことは懲戒解雇事由に該当する。
〔解雇-解雇制限(労基法19条)-解雇制限と業務上・外〕
 原告の本件事故に関する休業期間は昭和六一年三月二五日までであるから、解雇が制限されるのは同日以後三〇日間の同年四月二四日までであるのにすぎない。
 よって、同年七月一〇日付で原告を解雇した被告の処分には、労働基準法一九条に関して何ら問題はない。